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深夜にて。

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眠気覚ましにと、空腹に珈琲をかっ食らった筈なのだが、効かない現実に思わず舌打ちをした。大量のレポートを書かなくてはならないし、しなくてはならない実験だって溜まっている。
 俺の専攻している教科は魔法とも科学とも、どちらとも言えぬ中途半端な内容である。故にあまり開拓されていない、だから面白いだろうかと踏んで入った学科であった。
 進歩した科学を応用すれば、魔法が行う事など造作なく模倣出来る。けれど、それはあくまで代用でしかなくて、魔法は限られた人種しか使えないなど不平等ではないか。という思考を持ち合わせた教授が立ち上げた進学コースらしい。
つまり「魔法を扱う為に必要なセンスを科学で応用する」のを目指す学科なのである。
「ねぇねぇ、光消してよ」
「アイマスクでも付けて眠っとけ」
 ルームシェアをしている彼はベッドの上から苦情を漏らしていた。ナイトキャップを被ったその姿は酷く幼く見える。
「やだ。そもそもアイルが、こんな遅くまでしてるのが悪いんだよ」
「俺は悪くないだろ。こんなに早く寝たがるノートが悪いんだ」
 うにゅ、と奇妙な声を立ててから、こちらに近付いてきた。完全に頭が冷めていないのか、ふらついた足取りで僕の真横にあるイスに座る。音符が沢山散ったキャップの先端に取り付けられたボンボンが、顔を動かすたびに跳ねるように動く様を、眺めていれば彼は真っ黒な目をこちらに向けて、首を傾げてきた。
「なにをじっくりと見てるのさ」
「いや、別に。そっちこそ俺のレポートを見るんじゃねぇ」
「おれにもわかるかなぁ、って」
 文字に連ねていた画面を見つめながら彼は、ふわふわと笑ってきた。ノートの専攻はあくまでも音楽、芸術教科なのだから理解されてたまるか、と言いたくなるのをぐっと抑えてから額をつん、とつついてやった。
「わかりやすくなったら、ノートにも話してやるよ」
「ほんと!? 嬉しいなぁ」
 嬉しかったのは口先だけじゃなかったようで、思わず歌いそうになっているノートの口を指で押さえれば、もごもごとくぐもった声を出しながら俺の胸元を叩いてきた。離せという意味合いだろうと踏んで話してやれば、ぜぇぜぇ乱れた呼吸を戻していた。
「お前、深夜に歌い出したら智章に眠らされるぞ」
「智くん、って繊細だよね」
 つまらなそうに膨らまされた頬を潰してやれば、彼は拗ねたように見返してきた。
「だって医者を目指してるんだから、やっぱり慎重に几帳面にならないと死人が出るだろ」
 彼は麻酔医だ。酷い傷である程、むごい病である程に必要性が重視される職業でだからか、彼は物凄く神経質でヒステリックに形成されている。ちょっとした音で反応したり、隣の部屋に住んでる俺達が少し声を荒げただけで、彼は壁を叩いて怒鳴ってくる。ノートの声や楽器は好きなのか、今のように深夜でなければ何も言ってはこないが。
「そうすると、怜くんと、よくやってけるよね」
「怜治は、黙ってたら静かだからじゃねぇか?」
 智章の同居人である、とんでもなくマイペースな怜治を脳裏に浮かべる。一日が五十時間でもあるのかと言わんばかりにスローペースで、自身が赴くままに行動する姿はまるで猫を観察するように飽きる事はない。しかしながら、あんな几帳面な奴と釣り合うのがアンバランスで思わず笑いを覚えた。
「でも、まるで陸亀に勝るとも劣らないのんびりさだから、智くんが怒鳴るのが想像つくんだけど、なぁ」
「いやいや怜治は、頭の回転だけは早いし智章なんかは口先で丸め込めるんじゃねぇか?」
「うぅむ……。怜くん口だけは達者だけど、そんなに上手くいくものなのかな」
 ノートはふぁあ、と欠伸をしながら呟けば眠いのか、机に突っ伏するような格好になった。小さいながら寝息さえ聞こえはじめ、一瞬の内に夢の国へ真っ逆様に落ちたようだ。
「この莫迦ノート、寝る時は布団で寝やがれ」
 しかしながらベッドまで運ぶ程、腕力はないので薄っぺらい毛布をかけてやる。その動作にも気付かないのか、肩をぴくりとも動かさなかった。
 ため息をついてから、パソコンへ目を向けレポートに専念しようとすれば、先程のノートから引き継いだように欠伸が漏れる。
「珈琲は眠気覚ましに使うんだよな?」
 コーヒーメーカーに未だなみなみと残っている珈琲を飲みきったら眠気が覚めるだろうか、と自棄に近い事を考えながら、珈琲をおかわりする為に立ち上がった。


作品名:深夜にて。 作家名:榛☻荊