若返りの泉 TWENTY
7 こっくりさん
冬から春にかけてスキー客を相手にしていた民宿が、夏休みには学生村を開設し、高校生を受け入れているところがあった。
長野県小谷村もそうである。大糸線南小谷駅から山道を40分ほどかかるところ、連絡を入れておくと車で送迎してくれた。
段々畑が続き、標高1000メートル近くあるのだろうか、朝夕はかなり冷え込み、昼間でも日陰にいると涼しさを感じた。
高校2・3年生の時、剣道部の友達とそこに滞在した。
大阪駅22時前に出発する夜行列車「ちくま2号」に乗り、翌朝8時ごろ到着した。
列車に乗り込む前からウキウキだ。時々家を離れるのは楽しい。そして山の冷気は、どんよりとした頭脳に活を入れてくれているようだった。
勉強することを目的としている人たちのための学生村だから、午前中は勉強をした。
午後は卓球をしたり、村の散策に時間を費やしたり、山の頂上目指してハイキングにも出かけた。
夜は勉強もするが、そこでバイトをしていたお兄さんにも時間ができるので、今日は○くん、明日は△さんといったふうに部屋を変えてトランプなどのゲームに集った。
ある日、バイトのお兄さんの提案で「こっくりさん」をすることになった。
「こっくりさん? それなに?」
と、みんな興味しんしん。
紙に、鳥居と数字と50音と「はい」「いいえ」を書いて、コップを用意する。
ひとりが精神を集中させ、
「こっくりさん、こっくりさん、来てください」
と念じてコップに息を吹きいれ、紙の中央に記した鳥居にコップの口を下にして置く。3人が目を閉じ、腕を浮かせて人差し指をコップの上に載せる。
3人以外の誰かがいろいろな質問をこっくりさんに発すると、コップは、数字や文字、はい・いいえの所を移動していくのだ。
びっくりしたことがある。ビールを飲んでいたお兄さんが息を吹き込んだ時、コップは紙の上をフラフラとして迷走していたことだ。
誰かが私のことで質問した。
「結婚はしますか?」 「はい」
「相手は分かりますか?」 「ここにいる」
「え―――っ!」
そこにいた男性はバイトのお兄さん2人。そのうちの1人は医学部の学生で、ちょっぴりカッコイイ。そして高校生が数人。
医者の卵と結婚できたらいいかな、とひそかにほくそ笑んだ。
その後、彼らとは二度と会うことはなかった。
作品名:若返りの泉 TWENTY 作家名:健忘真実