若返りの泉 TWENTY
17 野 生 動 物
春山で広い谷筋を歩いている時、稜線近くに、動く2つの黒い物体を見つけたことがある。クマの親子であるらしい。しばらくその姿を目で追って見ていた。
すぐ間近でクマに遭遇した時はびっくりしたが、怖いというより感動した。幸い何事もなく別れることができたが。
つややかな披毛をしていて、触りたいという欲望がわいてきたが、しばらく見つめあったのちクマは、ドスン、と向きを変えて走り去った。
奈良の山中を歩いていた時のことである。
【ちょっとした出会いから(5)参照】
北海道の層雲峡でキャンプした時、大雪山を縦走してきた人から聞いた話である。
大雪山中にはヒグマ警戒網があって、ヒグマの動きを観察し、進行方向にある山小屋にヒグマ情報が伝えられると、テント泊まりの人たちは小屋に避難するのだそうだ。
本州にいるツキノワグマは臆病で、普通なら近寄ってはこないが、人を襲ったニュースを聞くと、どちらかと言えばクマに同情する。よっぽどの理由があってのことだろう。
層雲峡からスキー場を経て黒岳へ向かう道すがら、足元をチョロチョロと走りまわるたくさんのリスがいた。愛嬌のある仕草に立ち止まって見入っていた。人に警戒する様子もない。
比良山ではサルの一群と遭遇し、私たちが食事をしている様子を見入られていた。
油断ならないのは、箕面のサルである。箕面の滝は有名だと思うが、滝の近くのベンチに座り、若い男性が缶ジュースを飲んでいた。
からだの大きなサルがのっそりと近づき、すばやくその缶ジュースを奪うや走り抜けた。そして、悠々とジュースを飲みほした。みんなはあっけにとられて見ているしかなかった。
聞くところによると、落ちて入るコインらしきものを見つけると、自動販売機に投入してボタンを押すそうである。
観光用に餌付けされたサルではあったが、山に帰す試みが何年も続けられている。
早朝、滝へ続く川沿いの木柵の支柱に座っている多くのサルたちを、今でも見かけるのだが。
作品名:若返りの泉 TWENTY 作家名:健忘真実