若返りの泉 TWENTY
1 こうして医者嫌いになった
からだに重みを感じて目を覚ました。
足首を痩身の父が押さえ、でっぷりとした母は私の上半身にまたがるようにして乗っかっている。
右手には薬包紙が見えた。
左手でわたしの閉じている口を押し広げようとしていた。
必死で口を真一文字に結び、顔をそむけた。
数分ごとに鏡をのぞいては、そこにある、口元がゆがんだ顔を見てはしゃくりあげていた。
もうずっと、この顔のままで暮らしていかなあかんのや
と思って。
5歳のころ、はしかに罹った。
両親の奮闘むなしく、薬を飲むことを拒否した私はまたもや病院へ連れて行かれた。
体の大きな医者だった。
「別に薬飲まんかてかまへんけどな。おなか切ってそこから入れたらええことやさかい、そこに寝ぇ」
泣いた。大声で泣いた。
そうして医者嫌いになった。
それからずっと、医者は嫌いである。
作品名:若返りの泉 TWENTY 作家名:健忘真実