君ト描ク青空ナ未来 --完結--
26
「・・・仲原・・・」
予想していなかったわけじゃない。
「俺は正真正銘、血のつながった仲原俊弥の弟だよ。ビックリした?」
相手の口から出た事実にショックを隠しきれない。
「でも、予想はついてたんじゃないの?」
そうだけど、もしかしてって思うのと、本人の口から実際に聞くのとはわけが違う。
「今度は俺からの質問。別に隠してたつもりも無いんだけど、どうして俺が仲原かもしれないって思ったの?」
「最初にあったとき、どこかで見たことあるかもって思って・・・、俊弥さんのこと呼び捨てにしてるし、それに・・その・・・僕との関係がなくて良かったとか悪かったとかって、関係の深い人じゃないといえないことじゃないかと思って・・・」
「なるほどね」
「それから、似てるんです、雰囲気が」
「本当?」
「『空流くん』って呼ばれるたびになんだか既視感みたいなのを感じてて・・・」
「俊弥になんて似ないようにしてきたはずなんだけどね」
そう言って、敦也さんが微笑んだ。
なんだか、ガラス細工みたいな微笑み方だと思った。
すごく綺麗なんだけど、すごくもろくて・・・・なぜだかとても哀しそうだと思わずにいられなかった。
「なんで、こんなことをしてるんですか?」
この人はこんなこと、やりたくてやっているようには思えない。
「その質問は、さっきの質問とかぶるんじゃない?俺はあることをある人にわからせるため、そう言ったよね?」
それでも、いったいこんなことをすることで何をわからせることができるんだろう。
「ある人っていうのは、俊弥さんのことなんですか?」
「そうだね」
「あることっていうのは?」
そう聞くと、しばらく黙った後に敦也さんが言った。
「約束だから、それを質問にするっていうなら答える。聞きたい?」
聞きたい。けれど素直にそう言うことはためらわれた。
それについて聞いて欲しくないとこの人が思っていることは明白だったから。
「僕が聞く必要の無いことなら、聞かなくてもいいです」
「そう言ってくれるとありがたいな。俺は質問に答えなかったから、もう一個そちらからどうぞ」
そういわれても、思いつく質問は敦也さんと俊弥さんのことばかり。
でも、それはきっと聞いて欲しくはないこと。
「もう少し樹のこととかを聞いて自分の心配をしたら?」
その助言はもっともだった。
「あの人は、何がしたいんですか?」
行動も発言もよくわからないし、誠司さんをバカにしたいのか、僕をバカにしたいのか、そもそもどうしてこんなところにつれてきたりしたのか。
「鷹島の若ごっこがしたいんだってさ」
「それは知ってますけど・・・どうしてそんなことを?」
「樹は鷹島さんが嫌いなんだって」
「どうして?」
「前に、一ノ宮と鷹島が取引相手だったころに、一ノ宮の内部での不正が鷹島にばれて、バッサリ切り捨てられたことがあるらしい。それでしばらく一ノ宮が苦しくなったとか。樹は親父さんから話を聞いただけだと思うけど」
「・・・でも、そんなの誠司さんのせいじゃないじゃないですか・・・」
「もちろん、不正なことをしていたほうが悪いのは誰が聞いたってわかる。でも人の心にそんな理屈は通用しないんだよ」
そういわれても、納得できなかった。
だって、悪いのは明らかに一ノ宮のほうなのに。どうして誠司さんが嫌われないといけないのか、全然納得がいかない。
「俺から質問していい?鷹島さんと一緒にいるときは、どういう風に生活してたの?」
そう聞かれて、思わず顔をしかめた。
そういえば、敦也さんだって樹って人に頼まれてここにいる。そもそもの目的は『鷹島の若ごっこ』についての情報を僕から引き出すことだ。
「すごく答えたくない気分になる質問ですけど、約束だから答えます」
そう言ってから、誠司さんとすごした生活を話した。
本を読んだり、庭の散歩をしたり、一緒に食事もしたし、加川さんともたくさんのことを話した。
なんて穏やかで、キラキラと輝くような思い出だろう。そんなに前のことではないはずなのに。
俊弥さんのカウンセリングまで受けさせてもらった。そう言うと敦也さんは少しだけ苦い顔をしながら聞いていた。
「思ったよりも全然普通だね」
話し終えると、敦也さんからはそんな感想が出た。本当に、普通の生活しかしていない。
でも、あの時、そんな普通が僕にとっては限りなくうれしいことだった。
作品名:君ト描ク青空ナ未来 --完結-- 作家名:律姫 -ritsuki-