君ト描ク青空ナ未来 --完結--
23
「君が素直に一緒に来てくれれば問題ないんだけどね」
敦也さんがそう言った。
「でも、来るしかないでしょ?」
樹さんが言う。
「他に君に出来ること、ある?」
・・・ないことは、ないはず。今ならきっと。
あのペンションに戻れば、きっとまた今までどおりの日常が帰ってくる。
「ペンションに戻ればいいと思ってる?」
思考を読んだみたいに樹さんが聞いてきた。
素直にうなずくのも何となく癪だったから、何も答えない。
「今頃、向こうがどうなってるのか考えてみなよ」
そういわれてみて初めて、千晴さんたちは今頃どうしてるだろうという思案が働いた。
きっとあの後、俊弥さんがペンションに到着したはずだ。
何か普通でなことが起きたことに気付いていない訳がない。
そうしてもちろんそれは誠司さんにも伝わっているはず。
「皆で君の事心配してるだろうね」
それが、眼に浮かぶ。
「ペンションは、もしかしたら今日は休業かもしれない。もちろん鷹島の若や仲原さんの仕事も滞るだろうね。君一人のためだけに」
なんだろう、この人の言いたいことが段々とわかった気がする。
それを聞きたくない、認めたくない・・・でも・・・
「結局、君はどこにいても迷惑にしかなってないんじゃないの?」
自分の周り全ての時間を止められたような感じがした。
それが事実だとわかっている気持ちとそれを認めたくないという気持ちが混ざり合って、何も言葉を返せないままに時間が過ぎる。
「自分でも、思ってるだろ?認めたくないだけで」
この人の言葉は、人の一番弱いところを抉っていく。
そんなところを抉られて、耐えられるほど強くはない。
本当は、この人が言う通り。
いつも誰かの迷惑にしかなっていない。
そのことは、どうしようもない事実。
見たくなかった現実を、目の前に突きつけられた時に思ったことは、いっそこの世界から消えてしまえたら楽なのに、ということ。
そうできたら、どんなにいいだろう。
誠司さんや俊弥さんの記憶からも全部、消えてしまえれば。
「それで、どうするの?」
「もう、好きにしてください」
そう都合よく消える事なんてできないなら、もう何も考えたくない。
成り行きのままに、全てを任せてしまえばいい。
どうなったって構わないから。
どうせ何かをしたって、死ぬほど苦しい思いをするか誰かに迷惑を掛けるかしか選択肢がないんだから。
「それが一番、君が大好きな鷹島の若に迷惑をかけない方法だろうね」
そう言いながら樹さんが立ち上がった。
敦也さんも立ち上がって、僕の手を引いて、立たせる。
自分で歩く意思なんてないから、半分引きづられるみたいにして歩く。
「自分を棄てる前に人を憎むことだってできる」
そうできえば、楽なのに。
敦也さんが呟いた。
人を憎むことができたら、楽だったのかもしれない。
それでも、そんなことが出来るだけの気力はもうとっくになくなっていた。
作品名:君ト描ク青空ナ未来 --完結-- 作家名:律姫 -ritsuki-