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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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15

仕事は5時までに終らせ、一度帰ってから小田原へと向かう。
喜田川は先に邸へ返し、一人で約束の場所へと向かう。
着いたのは観光客向けのまだ空いているバー。

「誠司」
時間までにはまだしばらくあるにもかかわらず待ち合わせ相手はすでにそこにいた。
黙って隣へと座る。
「一人なのか?」
「ああ、喜田川が絡むとまた厄介なことになりそうだ」
「それはごもっとも。さて、いきなり本題に入っていいのかな?」
「ああ」
バーテンに適当な飲み物を注文して、俊弥と話を始めた。

「お前にどこまで話したっけ?」
「どこも何も最初からだろ、なぜあんな手を込んだまねをして空流を連れ出したのか、そこからだ」
「はいはい、そうでした」
悪びれた様子もなくそういった後、いきなりまじめな口調でと俊弥が語りだす。
「どこから話して良いのかな、喜田川さんをはずしたってことは直接の原因はあの人だってわかってるんだろ?」
「正確に言うと、喜田川と私の二人、か・・・」
「そうだな。その次の日、突然俺のところに空流くんから電話があったんだ」

その日。鷹島の伊豆の新規開業ホテルでのお披露目パーティがあった。
もちろん誠司は鷹島の代表として出席。
仲原の家にも招待状を出し、俊弥が出席するという返事をもらっていた。
しかし、始まってからもしばらく待ってみても俊弥は現れず、連絡を入れる暇などあるわけもなくパーティは終了。
終了後に携帯に何度か電話をかけてみたけれどもつながらず。
ずっと不思議に思ったままだった。

話によると、その日の俊弥は、パーティ会場へ向かう途中に空流から電話を受けた。
パーティに来るついでに、秋山千晴夫婦が住み込みのアルバイトを探している、という話をもってこようとしていたらしい。
もう少し落ち着いたら空流も働きたがっているようだし働かせてみては、と。
そんなときに空流からの突然の電話。タイミングが良かったのか悪かったのか、空流へ直接話がいった。
『患者さんにだってしたいと思うことをする権利がある』
これが大学のときからの俊弥の口癖。
俊弥にしてみれば、そのモットーに従ったに過ぎないのだろう。
それでも、納得がいかない。
「なんで、相談しなかったんだ?」
「そんな暇はなかったし空流くんも誠司には知らせないでほしいといったから」
「それだけか?」
「誠司に知られたくないってことは、加川さんが留守の間しかないだろ?ホテルへ向かうのを変更して、すぐに伊豆の鷹島別邸に向かったんだ」
「私に知られてなんでまずい?」
「だってお前は反対するだろう?」
「当たり前だ。まだ怪我だって完璧に治ったわけじゃないのに」
「お前にかかれば空流くんの怪我は一生完璧になおらないだろうな」
めずらしく皮肉のこもった俊弥の言葉。
「どういう意味だ?」
「そういう理由をつけて、お前は一生空流君をそばにおいておくんじゃないのか、ってことだよ」
「別にそんなことは・・・」
「ない、って言い切れるか?怪我が心配だから、とか病気が心配だからとかの理由付けをしてそばにおいておくつもりだろ?」
どんなつもりであろうとも、怪我が治りきっていないのもそうだし、またいつ病気にかかるかわからないからには一人で生活なんてさせるわけにはいかない。
「心配だから、仕方がないだろ」
「はいはい、そういう理由だといいな」
口の端を吊り上げて、俊弥が笑う。
「なんか含みのある言い方だな」
「別に。いい加減そういう理由じゃない本音を認めてもいいんじゃないか、って思っただけ」
「本音?」
「とぼけるなよ、わかってるだろ?」
その言葉に返事を返さずにいても、俊弥が言葉を続けはしなかった。
黙っていると飲み物のロックが立てる音が耳につく。
「お前がその気持ちを認めない限り、俺は空流君の居場所を教えるつもりはない」

その口調に有無を言わせないものを感じて、またしばらく何も言うことができなかった。