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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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「日高様?」
ドアの外から千晴さんの声がした。
「空流君?」
朱音さんの声もする。
「はい」
ドアの外に向かって返事をした。
「日高様、ドアを開けて下さい」
千晴さんのすごく低い声がした。
その声に反応して日高社長があごをしゃくった。
僕にドアをあけさせる合図。
それと同時に机の上の札束を懐へと戻した。

ドアをあけると二人がドアのすぐ傍に立っていた。
二人ともすごく硬い表情。
「日高様、困ります。勝手に従業員をお部屋の中に入れられては」
約束違反は僕の責任だ。
「千晴さん、すみません」
千晴さんは日高社長を見つめたまま何も反応を返してくれなかったけれど朱音さんの両手が肩に置かれた。
静かに首を振ってくれる。
「なんなんだ!そのくらい大したことじゃないだろう!」
日高社長が怒り始めた。
でも千晴さんの方がずっと怒ってるのが空気で分かる。
違反をした自分で言うのもなんだけど、このくらいの規則違反にそこまで怒る事じゃない気がする。
「ええ、何事もおこらなければ見過ごそうかと思いました。けれども私が怒ってるのは彼を部屋に連れ込んだことだけではありません、その後にあなたがおっしゃった彼に対する暴言です」
え…?まさか、ドアの外で全部きかれてた…?
「朱音があなたが空流君を部屋に引っ張っていくのを見ていたんです。その後の会話もドアの外で大体きかせてもらいました、撤回して彼に謝って下さい」
「ばかばかしい!なんで私が…」
「それをなさらないのでしたら、どうぞもうここにはいらっしゃらないでください」
千晴さん…?
お断りする事は無理なお客様だって自分で言ってたのに。
「待って下さい、千晴さん、落ち着いて下さい」
こんな言葉は千晴さんの耳には届かない。
「千晴、言ったな。望み通り二度とここにはこないでやる!私の会社の社員も二度とここを使わないと思え!」
日高様が荷物をまとめだした。
「フロントでお待ちしてます」
千晴さんがあっさりと言う。
「私よりもその若造の肩をもつんだな。ここは誰の投資で経営できてる思ってる?苦しい時も助けてやったのに、喉元過ぎればというやつか」
「そのことは本当に感謝してますし、これからも引き続きお金はお返しします。けれど、それとこれとは別問題です」
一礼をして、部屋の外に出てドアを閉めた。
1階のフロントまで降りる。
「空流君、大丈夫?」
そう心配してくれるのは朱音さん。
「はい、特に何もなかったですし…。それより千晴さん…」
あんなこと言っちゃって大丈夫なんですか?、と続けたいのにそこまではっきりとは言えない。
「大丈夫だよ、いい機会だったんだ。空流君にも後ですべてを話そうと思う」

日高様は呼び付けた運転手が来るのを待ってから、怒り冷め遣らぬ様子でここを後にした。

今日の夕飯の席ですべて話すと言われたあと、再び庭の掃除へ戻る。
庭のそうじをしばらく続けていると、見覚えのある車が見えた。

半月以上見ていなかったけど、あの車は僕をここにつれてきてくれた車だからはっきり覚えてる。
車が敷地に入ってくるのをまって、車の中から出てきた人を見た時には少しの驚きと大部分の安心…そして見えてしまうあの人の面影。
「俊弥さん!久しぶりです」
「久しぶり。ちょくちょく顔見に来るとか言ったのに、もう半月以上だね。上手くやれてる?」
「はい、千晴さんも朱音さんもとっても良い人です…でも今日ちょっと色々あって…」
「どうしたの?」
庭先だっていうのに、そんなことも気にせずに今日起こったことをしゃべってしまっていた。
この人を前にするとなんでもしゃべってしまう。

「そっか」
全部話しおわったあともその一言で何か考えこむ様子だった。
「とりあえず、俺は千晴に会ってくるから」
「はい、引き止めてすみませんでした。僕もそろそろ朱音さんの手伝いに行ってきます」
「うん、いってらっしゃい。頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」
俊弥さんと反対方向へと歩き出す。
聞きたい事が山ほどあって2回振り返ったけれど、結局声はかけられなかった。

あの人は元気ですか…?
無理せず仕事をしてますか…?
あの人は今、どうしてるの…?

全部気になるけれど、聞けない。
あの伊豆の別荘で過ごした日々に、俊弥さんの手を借り、自ら幕を引いたのだから。
聞ける立場になんてない。

結局、俊弥さんを呼び止める事が出来ないまま母屋に到着した。
お客様のお夕飯作りの盛り合わせなどを手伝う。
大分手慣れてきたもので、上の空でも失敗する事はなかった。