君ト描ク青空ナ未来 --完結--
33
薄い封筒が誠司のオフィスへ届いたのは、空流の編入試験も間近に迫った頃だった。
「誠司さま、こちらは個人宛のものです」
喜多川が郵便物を整理して誠司のオフィスへと運んでくる。
郵便物は喜多川がチェックと選定を済ませてもってくるのだが、個人宛のものは封を開けずに直接ここまで持ち込まれる。
「わかった」
他の仕事をこなしながら、適当に目をやると見慣れない大きいサイズの封筒が目に入った。
喜多川の退出を待って、その封筒を手に取る。
それは予想通り調べさせていた一ノ宮の奥方の結婚前の家族に関する報告書だ。
封を切って、中身を取り出した。
最初のうちは、表情を崩さずに文字を追っていた誠司だが、途中からその目は驚愕に見開かれた。
黒川大地
その文字を指で追って、確かめる。
確かに、そう書かれていた。
「だいち、さん・・・」
その響のなつかしさについ呟いてしまう。
「どうして、あなたの名前が・・・」
驚きを抱えながらも目は報告書の先へ先へと急ぐ。
数枚の紙にびっしりと書かれた文字はすぐに読み終わった。
読み終わった後は額に手をあて、しばらくは動くことができなかった。
そこに書かれている事実が信じられなくて。
こんな形でこの人の名前をみることになるとは思わなかった。
そして、もう会えぬ人となっていることが残念でならない・・・。
自分にとっても。
きっと空流にとっても。
だからきっと、空流にはこの事実をしる権利がある。
もともとこの調査は空流のために始めたこと。
けれども、浮かび上がってきたその人物は誠司とも関係が深い故に、正直に空流へ言うことをためらう気持ちも生まれていた。
「誠司さま。そろそろお客様が見えるお時間ですが」
ドアの向こうから聞こえてきた声にハッと顔を上げる。
「わかった」
引き出しにその書類を入れて立ち上がった。
夜まで淡々と仕事をこなし、家へ戻ることができたのはもう日付が変わったころ。
玄関のドアをあけても、駆けてくる足音がないということはもう寝てしまったのかと少しだけ残念に思いながら中へ入ると、まだ居間の電気がついていた。
ドアを開けると、愛しい姿。
勉強道具を広げたまま、テーブルで寝てしまっている。
気持ちよさそうに寝ているから起こすのも可愛そうな気がして、毛布をかけてやってもう少しだけ寝かせておくことにした。
いまだけ、と思って向かいに座り、柔らかい髪に手を触れる。
今日わかった事実をすぐこの子に伝えるべきなのだろうか。
それを考え始めると、頭が痛い。
しばらく悩んでいるうちに、空流が目を覚ました。
「・・・ん、誠司さん・・・?」
目をこすって、体を起こす。
「おかえりなさい。帰ってきたの気付かなくって・・」
「遅くなるときは先に寝ててくださいと何度も言ってるでしょう。でも、寝るならちゃんとベッドで寝ないと風邪をひきますよ」
「はい」
素直にそう返事をして、机の上に広げっぱなしだった教科書を閉じた。
「調子はどうですか?」
「入試の問題は大体解けるかなってくらいです」
「それは頼もしい」
「敦也さんのおかげです」
敦也は本当にちょくちょく暇を見つけては勉強を見に来てくれている。
「あ、あと預かってるお金でちょっと本かっちゃいました。敦也さんがわかりやすくてオススメだって」
「頑張ってますね」
「はい。誠司さんがくれた機会を絶対に無駄にしたくないから」
決心を固めてそう言ってくれる。そのためにこんなにも努力をしてくれる。
誠司の胸にどうしようもない愛しさがこみ上げてきた。
今は、目の前のことに集中していて欲しい。
その思いもあってか、今日わかったことを空流に伝えるのはやめた。
いつか伝えなくてはならないことはわかっている。
けれども、今はまだ・・・伝えるべきではない。伝えたくない。
どちらの感情が大きかったのかは誠司にもわからない。
何事もなかったかのような顔をして、空流をベッドに入れた。
作品名:君ト描ク青空ナ未来 --完結-- 作家名:律姫 -ritsuki-