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VARIANTAS ACT11 花と鴉

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 グラムは低い落ち着いた調子で、確かにそう言った。
「未確認情報だが、諜報部からそれらしき動きがあると報告があった」
 会話の相手はガルス。
 グラムは駐屯基地に備え付けられた電話機で、彼と会話していた。
「支部軍閥と、一部のサンヘドリン軍士官…そしてメーカーが協力し合って“口利き”を行っているようだ。おそらくは、支部に強力な拠点防衛兵器を置くことが目的だろう」
「拠点防衛兵器?」
「そちらのトライアルに参加しているはずだ…例の…『ピスティス』が…!」
 グラムは大きくため息をついた。
「おそらく、明日の総当たり戦、彼らは辞退するだろう。これにかかわっているのは、恐らく一社だけではない! 最初から、このトライアルの結果は決まっていた…!ジェネシックが勝つと…おそらく、相手の社の機体が、予想を超えて高性能だということを知り、大佐をパイロットにしたのだろう」
 苦虫を噛み潰したような表情をするグラム。
 彼は、ガルスに答えて言った。
「私が負けるかもしれませんよ?」
 受話器の向こうで一瞬笑うガルス。
「不慮の事故が無いようにな…」
 グラムはそれを聞いて、一瞬、不適な笑いをしてから受話器を置いた。




************




「ごめんね…エステル…変な事頼んじゃって…」
「…まったくです…こんなこと頼まれたのは初めてですよ…」
 一枚のブランケットを分け合い、身体を寄せ合ってベンチの上に座るグレンとエステル。
 少し迷惑そうなエステルを尻目に、グレンは落ち着いた表情をしていた。
「エステルって、あったかいね…」
 エステルの肩に腕を回すグレンはそう言ってエステルの頬に自分の頬を寄せる。
「…あの…」
「私ね…私が19の時にお母さんが死んじゃったの…それも“不運な事故”で…」
「グレン?」
「綺麗で、頭が良くて、いつもいい香りがしてた…それでかな?私がエステルと初めて会った時、初めてじゃない気がしたのは。…綺麗で、頭が良くて…お母さんと同じ匂い…お母さんと同じ名前の“エステル”…だから私、あなたの事を、ただの他人だと思えないの…」
「…お…母さん?」
「でもわかってる…エステルはエステルで、お母さんじゃないって…エステルをお母さんの代わりにしようだなんて、私の勝手な我が儘だもんね…私にはお母さんも居ない…お父さんも居ない…家族は誰も居ない…私は一人ぼっち…」
 そう言って、悲しげな表情で俯くグレン。
 エステルは、そんなグレンを優しげな眼差しで見つめ、こう言った。
「そんな事は無いわ…グレン…」
 エステルは突然、グレンの首を抱いた。
「どうしたの? エステル…」
「あなたは、みんなに愛されている…技術部のみんなにも、シェーファーのみんなにも、大佐にも…」
「大佐も…?」
「グレン、あなたは一人じゃないのよ…あなたの周りにいるみんなが、あなたの家族よ…」
 グレンを強く抱きしめるエステル。
 グレンはいつもの表情を取り戻し、エステルの胸に抱かれたまま目をつむった。
「…エステル…」
 安らかな様子のグレン。
 ハンガー内の微かな明かりは、二人だけを照らし、淡い光りが、グレンとエステルを包んだ。


TO BE CONTINUED...