VARIANTAS ACT10 砂の器
グラムは静かに頷いた。
「彼女はきっと、優秀な管理官になりますよ…」
「そうだな…」
グラムは、ガルスと共に窓の外を眺めた。
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「もう、ここで大丈夫です」
アシェルは、空港ターミナルまで見送りに来ていたレイズにそう言うと、小さくため息をついた。
研修期間は終わった。
全てが元通りだ。
今思えば、二ヵ月間が短く感じる。
しかし彼女は、最後にひとつだけ、彼に言おうと決心していた。
「少し、寂しくなります。お気をつけて。お体を大事に」
「軍曹こそ、ありがとう」
レイズを見つめるアシェル。
「あの…自分の顔に何か?」
「諦めませんから…私、諦めませんから」
「…え?」
にこやかに微笑むアシェル。
そのとき、別れを告げるアナウンスがターミナルに響いた。
「それでは、軍曹…また、いつかどこかで…」
アシェルはレイズに背を向け、機へ向かう。
何の事か、彼には伝わらなかったかもしれない。
でも、彼女にとっては充分だった。
今はこれで充分。
後は心の中にしまっておこう…と。
彼女は帰りの便の席についた。
この期間中、彼女は様々な事を学び、様々な事を経験した。
正直、あれほど泣いたり笑ったりした二ヵ月間は、今まで無かった。
目を閉じれば、今でも浮かんでくる。
彼の声。
そして、彼の笑顔。
彼女は心の中で呟いた。
「(さよなら…サンヘドリン…さよなら…私の…)」
彼女は笑顔だった。
不思議と悲しくはなかった。
『いつか、またどこかで…』
彼女を乗せた艇は、ポートから離れ、空へ飛び立って行った。
彼女の心も共に乗せて。
[ACT 10]終
作品名:VARIANTAS ACT10 砂の器 作家名:機動電介