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VARIANTAS ACT9 IronMaiden

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Captur 1

 『彼女』はふと、窓から外を眺めた。
 灰色の雲の向こうに、この艇と同じ様な艇が沢山飛んでいる。
 向かう先は全て一緒。

 『旧オーストラリア大陸に存在する都市』

 次第にそのシルエットが明確になっていく。
 尖塔?巨大なドラム缶?
 違う。
 全て『兵器』だ。
 迎撃兵器を満載したタワー。
 巨大な砲台。
 目に見える物全てが兵器の、異様な『森』。
 彼女は思わず、驚嘆の表情を浮かべていた。
 その、見る者全てが息を飲み、畏怖の念を抱かせるその森の中を抜け、艇は更に中心へ。
 巨大な、本当に巨大なドーム型都市。
 その外円にある樹の枝の様な発着ポート。
 その枝の一つに艇は横向きに近付き接続した。
 大きな『ガコンッ!ガコンッ!』という音の後に空気の圧縮音。
 艇と発着ポートの気密扉が開き、新鮮な空気が流れ込んでくる。
 彼女はポートに降り立った。
 長い時間座席に座っていたせいで、身体が強張っている。
 彼女は少し控えめに背伸びをすると、黒のベレー帽を被り直し、皆が歩む方へ向かった。
 暫く歩くと、閉鎖された空間から、巨大な開放された空間に出た。
 全面コンクリート造りの、見たことも無い程大規模なバスターミナル。
 そうだと言われなければ、駅のホームと間違う程大きなものだ。
 彼女は並んで駐車するシャトルバスの一つに乗車。
 大きめのバックを前に抱え、席を探す。
 奥の方に空席。
「失礼…」
 彼女の一礼で、先に座っていた男性士官が席を奥につめる。
 その席に座り一息つくと、彼女達を乗せたバスはゆっくり走り出した。
 ライン状に点在する灯りが、徐々に早く過ぎていくようになる。
 バスは薄暗いトンネルを抜け、巨大なハイウェイへ。
 6車線編成の、外縁を高い防音壁で囲まれた巨大な道路。
 窓から見える風景。
 清潔感にあふれた近代建築物。
 灯りと、生気に満ちた街。
 この都市こそ、彼女が求めた物がある街。
 戦うための術を教えてくれる街。
 この街こそ、サンヘドリンの総本部だ。




************




「お客…ですか?」
 グラムのあとを追って歩くレイズは、不思議そうな顔で、そう問うた。
「現在の支部建設プロジェクトの一環に、支部管理官の前線研修プログラムがあるのは知っているな?」
「ええ」
「その管理官補の一人を、うちの部隊でも預かる事になった」
「うちで…、ですか?」
「うちに限った事ではない。他の部隊では既に仮配属が始まっているぞ?」
「ええ…」
 何か浮かない表情のレイズ。
「どうした…?」
「えーっと…管理官補は、我が軍出の士官では無いのですよね?」
「ああ。そうだ」
「なんか緊張してしまって…」
 申し訳なさそうなレイズに対し、グラムは無表情で言った。
「お前が緊張してどうする…いつも通りにしていればいい」
「…そうですよね!」
 司令官室の前で止まる二人。
 扉を開き、敬礼。
「グラム=ミラーズ、レイズ=ザナルティー両名、出頭しました」
 司令官室の中に入る二人。
 ガルスは、グラムとレイズの二人を見てから言った。
「両名ご苦労。知っての通り、一両日中に仮配属される管理官補の教導役を頼みたい」
「承知しております」
 表情一つ変えずに答えるグラム。
「では、大佐の部隊に仮配属される管理官補の、簡単な経歴とプロフィールを紹介しておこう。レイラ君」
「はい」
 ガルスの横に立つレイラが、ファイルを取り出した。
「アシェル=フランクリン中尉、25歳。大戦終結後、テラテア士官学校を首席で卒業。同年、統合体中央軍第八空中機動連隊第一空挺隊に配属。HMA搭乗経験有り。実戦経験無し。以上です」
 グラムが言った。
「珍しいですね…。女性ですか?」
 咳払いをして、グラムを横目で睨むレイラ。
「失礼…」
 一方ガルスは、腕を組み、険しい表情をしはじめた。
「まるで、飴と鞭だ…」
「どう言う事でしょうか?」
「支部は、我が軍では無く、統合軍の各有力軍閥に委託し、その兵力を配備する。対ヴァ機とメタニウム徹甲弾の配備…軍閥にとっては、よだれが出るほど甘い飴だ」
「では、鞭とは…?」
 ガルスはレイズに言った。
「ザナルティー軍曹」
「は、はい!」
 カチカチに固まるレイズ。
「軍曹はどれほどの期間、教導部で訓練を受けた?」
「はっ!一年程であります!司令閣下!」
 礼儀正しく答えるレイズ。
 ガルスは大きなため息をついてから、グラムに言った。
「対ヴァリアンタス戦闘訓練を受けていない軍閥の兵士が、すぐに対ヴァ機に乗って、対ヴァ戦力になると思うか?」
 即答するグラム。
「思いません」
「統合体も、とんだ茶番を演じているものだ…」
 沈黙するグラム達。
「しかし実際これに因って対ヴァリアンタス戦力は、名目上だけでも更に800万上乗せされる事となる訳だ…」
「なるほど、“飴と鞭”…ですな…」
 顔を見合わせるグラムとガルス。
「よろしい、以上だ。質問は?」
「ありません」
「では任せた。ミラーズ大佐」
「お任せ下さい。司令」
「あ、それと…。“彼”には、なるべく会わせない様に…」
 グラムは思わず聞き返した。
「“奴”…ですか?」
「“彼”は所謂…」
「“女好き”…?」
「うむ…中尉はなかなかの美人だ…くれぐれも、“失態”や“不祥事”が無いように…」
 グラムは一瞬笑ってから、もう一度敬礼。
「では、その様に…」
 回れ右をして司令官室を出て行く二人。
 二人が出て行った後、部屋は奇妙な空気に満たされた。
「…そんな目で見ないでくれたまえ…レイラ君…」
 ガルスを微妙な目付きで見つめるレイラ。
「いえ、司令もやはり“男性”なんだなぁ…と、思いまして…」
 くすりと笑うレイラを見て、ガルスは逃げる様に言った。
「レイラ君、済まんが…」
「コーヒー…ですね? 今お持ちします」
 微笑んでから向きを変え、部屋を出るレイラ。
 ガルスは彼女の背中を見送りながら頬杖をつき、一つ溜息をした。




************




 彼らは扉が閉まりきるまで敬礼し続けた。
 扉が閉まりきり、腕を下ろすグラム。レイズも後を追うように腕を下ろす。
「あの…大佐…」
「行くぞ、レイズ」
 おどおどとした口調で話しかけてくるレイズを無視するかのようにグラムは歩き始めた。
「あ…はい…」
 グラムを追うレイズ。
 相変わらず、歩くのが速い。
「それで、なんだ?」
 急に話を生し返すグラム。
「はい?」
「聞きたいことがあるんだろ?」
「あ、ええ…はい」
 レイズは、グラムの歩幅にあわせて歩きながら問う。
「さっきの『飴と鞭』って、つまりどう言う事なのでしょうか…?」
 急に足を止めた。
「大戦終結直後の混迷の時代…統合体中央軍と各地方軍閥のタカ派が、一時衝突する事件があったのを覚えているか?」
「はい、『ロックウェル事件』ですよね?」
 グラムは、再びゆっくりと歩き始めた。
「その事件以来、統合体は早急に軍閥の取り込みを進めた。やがて、ヴァリアンタスとの戦闘が再開され、軍閥は、その闘争精神をもてあます事となった」