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【完結】紅ノ姫君-アカノヒメギミ-

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CYAN


 入院生活はそろそろ一年を経るところに差し掛かったが、外の景色で飽いたことは一度もない。この部屋の窓の先には大きな木が隆々と立っているが、冬になれば葉は枯れるし雪が降れば枝にそれが積もる。夏になれば緑を纏い、喧しい蝉が一匹二匹張り付いている。四季は景色の色を変え、形を変える。日本という地で入院して、外の景色に飽きる、ということはないだろう。
 飽きる、といえば見舞いにくる客人の常套句、というか決まり文句には聞き飽きた。色を見るのは、毎回多少の違いがあって面白いのだが。
 と早速ノックだ。とりあえずステレオタイプな単語には期待しないので、それ以外を望むとしよう。
「ちわ、今日は寒いな。」
 屋外にでてない僕には解らないが、今日の気温はすこぶる低いらしい。いつもより濃く青い色をしている。
「外出てないので気温なんてわかりませんよ。」
「ほいこれ、お見舞い。ここに置いとけばいいか?」
 会話になっていない。この人の他人の意見の八割程を無視した台詞は他の一般人とはかけ離れたセンスがある。入院当初のお見舞い時には新鮮味があってまだ楽しめたのだが、これが十ヶ月連続だとそりゃあ飽きも来るだろう。で、今日のお見舞い品はバナナと…ブルーベリー?と…キムチ。
「キムチ以外はそこに置いといてもらって結構です。食べていいですか?」
「ご勝手に。」
バナナを手で取ろうとする。
「っと…。」
 モノを取るにもまだ慣れが必要だと痛感した。
「容態はどうだい、最近は。」
「足はなんとか。リハビリも順調ですよ。」
「今日は外に出てないって言ってなかったか?」
「そりゃ、リハビリテーションは午後からなんで。僕はさっき起きましたから。」
 というかこの人は来るのが早過ぎる。受付開始が七時くらいで今は七時半くらいだから、週四で相当早く来る迷惑な面会者、なんて受付嬢の方々に記憶されているに違いない。というか警察手帳掲げて来ているんじゃないか…ヒロさん。俺は警察だからさっさと面会させろー、みたいな。いやまさかね、来る度に事情聴取とか言っていたらキリがない。
「で、そろそろ話してくんない?去年の夏のアレ。」
 壁に立てかけてあるパイプ椅子を引きずって組み立て、それに座ってからの台詞もお馴染みのものだった。
「まぁ…ヒロさんに『元気ー?』とか『具合どう?』とかキモチワルイこと聞かれるよりは百倍マシなんだろうけどさ。」
「マシならいいだろ、早く話してくれよ。俺結構しつこいよ?」
 十ヶ月間ほぼ毎週三回以上来てるんだからそんなことは今更だ。
「柏木刑事、もう解決した事件について追求するのは徒労というか…時間の無駄ですよ?」
「今は仕事中じゃないんだから、刑事はやめてくれ。それと…俺の中ではあの事件はまだ解決していない。」
「…犯人も捕まって、殺人も起きなくなったのに、それで解決していないと?ヒロさんにとっては何が物足りないんですか?」
「キミだよ。」
 やっぱりね。
「…僕が何か。」
「おかしいだろ。学校までは特定出来たとはいえ、そこから犯人を断定するまでが俺達には全くわからなかったんだ。手も足も出なかった。だというのに君は全ての犯人を特定して、説得して、遂には事件を収束させたんだ。一体どうやったのか、どう立ち回ったか位は知りたいんだよ。」
「………。」
「推理小説を読んでさ、いきなり犯人をネタバレされたら以降を読んでも面白くないし、読み終えても釈然としないだろ。だから知りたいんだよ。君がどうやって、『殺人姫』を特定したのかをさ。」
「まいったなあ…言っても誰も信じないですよ?」
「誰かに話したことがあるのかい。」
「いえ、信じないのは解っていますから。」
 誰も信じない。僕は『普通』の人間と違う部分が一つある。
「仮に俺が信じなくてもいいから、話してくれ。信じるかどうかは君が決めるんじゃない、俺が決める。」
「はぁ……今日は嫌に突っ込んだ話題の切り出し方しますね。」
 うわぁ、こっちすげえ見てるよ。取調室とかにヒロさんと一緒にぶち込まれた人はこの空気に三秒でノック・アウトだろう。
「わかりましたよ…話挟まないで聞いてくださいよ?」
「善処するよ。」
「ヒロさん、さっき寒いって言ってましたね。確かに寒そうな色ですね。いつもよりもっと青い。でも仕事のゴタゴタはなかったんすかね、今日はってああ、オフでしたね。だから色が結構明るいんだ。」
「………?」
「ああ、口挟んじゃ駄目ですよ。僕はね––ヒトの魂の色が——見えるんですよ。」