真・三国志 蜀史 龐統伝<第一部・劉備、蜀を窺うのこと>
予想通りの回答に、劉備はため息を漏らす。
「お前の考えも分かる。だが、国に入ったばかりで恩愛や信義はまだあらわれていない。あのような方法で決着をつけるわけにわいかぬ」
「……御意」
龐統は内心の反論を口にせず、静かに頷いただけで部屋を退出した。結局、龐統は劉備に何を説かれても、今劉璋を切るのが最善であるという事実は変わらないと考えていた。だがそれと同時に、自分の君主の意見を聞き入れるべきと言う諸葛亮の言葉を思い出していた。
蜀に進軍する直前、荊州の門前で諸葛亮は言った。
『龐統、あなたには軍略の才があり、必ずや殿の勝利を勝ち取ってくれるでしょう。ですが、それが劉備殿の望む勝利であるかを、よく考えてください』
龐統は、襄陽や江東にいた頃も、誰かに仕えること無く、陰士として暮らしていた。時には劉表や孫権に献策もしたが、それも周瑜や魯粛のような友人に頼み込まれての事であった。龐統は、未だ君主に仕えるということがどういうことかを、図りかねていたのである。
それが、今回の一件で解決したように、龐統は思った。
もともと劉備への忠義ではなく、諸葛亮や魯粛ら、旧知の友人達のはからいで劉備に仕官した龐統であるが、劉備の人柄には好感を持っていた。その劉備を天下に担ぎ出す。
大きな目標をようやく実感し、龐統は蜀を手に入れるための更なる策謀をめぐらせるのであった。
作品名:真・三国志 蜀史 龐統伝<第一部・劉備、蜀を窺うのこと> 作家名:文学少年