僕らの日常風景
しばらくして、尚樹の携帯が音をたてた。
ディスプレイに写る文字をみて、尚樹が携帯を織へわたす。
「任せるわ…俺ちょっと司と契約違反してしまって…その電話に出るの怖いねん」
渡された携帯をみると、着信・松下司 とある。
受話器がはずれてるマークのボタンをおして、耳に当てる。
「もしもし?」
『あ、嘉山が出た。どう?仲直り完了したー?』
「…おかげさまで。ありがとうございます」
『良かった良かった。それにしても迫真の演技だったでしょ?あのとき突き飛ばしてくれなかったらどうしようかと思ったよ…』
後ろから、岡本先輩の「余計な事を言うな」と諌める声が聞こえる。
「こっちだって、先輩の事を突き飛ばしていいものか、さんざん迷いました…」
というか、本気で怖かった。
『まさか尚樹がいるなんて、俺も知らなかったから、そのことについては本人を怒ってね』
尚樹には、最初からすべて筒抜けだったのかと思うと、恥ずかしい・・。
尚樹が織の手から携帯を奪って自分の耳につける。
「予定にないことしてすまん。でもおかげでなんとかなりそうや」
『はいはい。良かったね。ま、あとは二人で上手くやりなよ、じゃあね』
携帯が向こうから切られる音がした。
尚樹さからも通話を切って、ブレザーのポケットに携帯を入れる。
「織が苦手なものがあるなら、俺が教えることかて、できる。俺にもっと頼ってええねん、一人で頑張りすぎる事ない。それに司かて、最初っからそんな優秀な生徒会長やったわけやないしな」
そうだったのかな、仕事なんか最初から全部完璧にやってしまいそうなのに。
「織は織らしく、会長がんばったらええねん。誰も司のコピーなんか期待せえへん。生徒会長、がんばりや」
「…はい」
初めて、その言葉に気持ちよく返事を返すことが出来た。
枕草子、9段。
『上に候う御猫は』というのが2年の学力テストの古典の問題。
「犬が泣くなんて、そんなことありえないですよね。古典や英語なんて話を追うために読んでるんでしょう?こんなありえないことを書かれて話の流れを追うなんて無理にもほどがあります」
「そういうけどなぁ・・あくまで昔の人が書いた物語なんやし、しゃーないと思わん?」
「思えませんよ、そんなこと」
…なんだか織の意見きいとると、こっちまで古典ができなくなりそう、と苦笑いをする尚樹である。
今回の事で初めて織と成績の話をした尚樹であるが、織の成績を聞いて、顔がひきつった。
この騒動で勉強が苦手なんだと思っていたら・・・現代文・4 古典はまあギリギリで3。でもそしてそれ以外は5。
司にコンプレックス感じる必要がどこにあるのかと疑いたくなる。
もしかしたら、古典以外は逆に尚樹が教えてもらう事になるかもしれない、と冷や汗をかくことになった。
常にカッコいいところをみせたい尚樹としては出来れば避けて通りたい道だけれど。
FIN
作品名:僕らの日常風景 作家名:律姫 -ritsuki-