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終業式の次の日から夏期講習は流石に辛い。世間は夏休みなのに一日も夏休みを享受しないまま汗をだらだら流して都内の学校まで行ってクーラーガンガンで今度は寒さに震え・・・温度差激しすぎ。
そんなわけでグロッキー状態なボクにミッションを告げるメールが来た。着メロはワーグナーのマイスタージンガー……ワルキューレの騎行の方がメジャーかも知れないけどカオルはこっちが好きみたいだから。
中身を見ると『昨日の話くわしく聞かせろ』
『カオルさん、ボクこれでも受験生なのですよ、今受講中なのですが』
五分もしないうちに返信が来た。
『仕方ない、冷えたアルコールを用意しよう』
……どうしても来て欲しいようだ。行くしかないな。

この後の授業をサボタージュ。学校から徒歩十分、なんて立地条件なんだ。
一息ついてブザーを鳴らす。中からはーい、と間延びした声がしてドアが開く。
「こんにちは」
この老若男女問わず骨抜きにする極上スマイルでカオルママに挨拶。
「あら、マオちゃん、久しぶりね」
危機感知レーダーに反応有・・・立ち話の予感!
予想通り。近況報告みたいなのと進路をちらほら、そんでもってカオルとの仲がやっぱり気になるんでしょうかね、そんな話をしてると後ろからヒヤッとしたモノが当てられた。
「ひゃうっ」
「面白い悲鳴だな」
振り返るとコンビニの袋をぶら下げたカオルがいた。タンクトップに短パンという凄いラフな格好で汗で胸の辺りが濡れているどうやらひとっ走りしてきた後のようだ。
「こんな熱いとこいないで入れよ」
短い髪を乱暴に掻いたついでに肘で家の中を指す。
灼熱の玄関からなんとか脱出、そのままカオルの部屋へGO!
「涼しい」
クーラー点けっぱなしで外に出ていたらしく部屋はひんやりとして気持ちいい。
「適当なとこに座って」
そう言って自分は革張りの椅子に身を沈める。一度あれに座ってみたい、と思いつついつもの定位置=ベットに座る。
ビニール袋から夏季限定と銘打ってあるチューハイを放りよこし昨日の献血の話をさっそく促してくる。一口飲んでボク視点で語り始める。酔いが回ってるのか思いのほか饒舌だ。おじいちゃん先生の件では「俺も行くか」なんて言って恐いもの見たさ満々な合いの手を、Sなメイドさんの件では「それセクハラじゃないか?」とか結構な発言が・・・もしかしてカオル酔ってるのかな?酒弱すぎ。ごろん、と寝転んでるボクが言えた立場じゃないけどね。
チラッとカオルの方を見たら獲物を狙う目でこっちを見ていた。
「何?押し倒したくなった?もう倒れてるけど」
何を言ってるんだろう自分。ライオンの檻に自分から入るようなものだな。なんか真に受けたカオルがマウントポジションとってきた。このままでは無限パンチの餌食になる。
生命の危機って言うんでしょうか?酔いが一気にすっ飛んだ。
「制服がシワになるから・・・」
発言と同時に顔前で腕をクロスに組みガード体制…手首捕まれ一瞬でガードを崩された。
「お前、ちょっと黙れ」
ある意味拳より重い一撃で黙らされた。その後は時折声を上げたけど。


九月。始業式も終わり二学期開始。だけどあの日以来カオルとは顔を合わせてない。メールなんかもやってない。基本向うが呼び出してボクが忠犬のようにカオルのとこに行く。それがボクらの関係だから。
あの日以来気まずくなったのか向うは呼び出さない。以前なら用事も無いのに呼んだのに。正直それは迷惑だったけど、こんなに長いこと会ってないのは随分と久しぶりなわけで会いたいわけで、乙女心って複雑だ。
久々にカオルからの連絡が…風情がある徒でもいうのだろうか、下駄箱に「放課後屋上にて待つ」って果たし状みたいのが置いてあった。古風過ぎる。
 
黄昏時あの日と同じ位赤い、何故かクラスを出るボクにクラスメートは「生きて帰ってこいよ」「骨くらいは拾ってやる」「戦って死ね」とかの声援を送ってくる。やっぱり悲壮感みたいのを漂わせてたのかな?
みんなの生温かいエールを背に受けて颯爽と廊下を走ると生徒指導の教師に怒られこってり搾られてから屋上の戸を開いた。
「随分と遅かったな」
小麦色にこんがり焼けたカオルがラスボスっぽく夕日を背を向けて立っていた。
「廊下で説教された」
素直に言う。よかったいつも通りのカオルだ。
「らしくないな」
軽口の応酬・・・久々だ。いつもならこれから言葉のジャブの応酬があるのだが。
「あの日は悪かったな」
肩透かしを食らった。ある意味いいのをもらった感じだ。思考が定まらない。
実は今目の前にいるカオルは双子のカヲルなんじゃないか、と邪推。しかし、カオルは一人っ子なのでありえない。馬鹿な思考は秋風と共にだだっ広い屋上を吹き抜けた。
「献血の話をするお前がやけに楽しそうだったから…嫉妬した。別に酒のせいじゃないからな」
なんかやけにしおらしい。この夏にいったい何があったんだ?ひと夏のアバンチュールか?
「献血に行けって言った時になんて言ったか覚えてるか?」
話が飛び飛びでよくわからんがカオルの中では繋がってるのだろう。まるで山の天気のようだ。
「世のため人のために血流して来い。そう言ったね」
合いの手代わりの一言。
さて、実はこの言葉が最初から気になっていた。カオルは怪我はしてない、これは断言できる。擦過傷とかはあっただろうが人を献血に行かせたくなるくらい血は流してない。強いて言うなら、ずっとイライラしてる日があったりはずるが、虫の居所が悪い事くらい誰にだってある。イライラしてるからって暴力沙汰も起こしてない、血が流れる事象がわからない。
チラッっとカオルの方を見る。顔が赤いのは夕日のせいだとしてやっぱりなんか変だ。もしかしてこないだのを気にしてるのかな、それとも答えが気になるのかな?
「こないだの事なら、気にしてないよ。むしろ、ボクとしては、ねぇ。」
ボクだって健全な男の子ですもの、ああゆうことは嫌いではないですよそりゃ。
「そうだ、こないだの事だ。だがその前に訊きたいことが有る?」
なんか必死さ、みたいなものが伝わってきた。
「何?」
できるだけ神妙な面持ちで聞いてみる。
「献血というか、他人に自分の血が流れるってどんな気分だ?」
また変な事を聞くな。
「感想かい?そりゃ…あそこには変な人がたくさんいて有意義だったよ。それに、他人の中に自分の血が入るってちょっと不思議な気分だよ」
うつむいている…なんで?変なことは言ってないとは思うけど。女の子らしい仕草のカオルは新鮮だけど、理解できない。
「そう。もし、もしもだ俺の中にマオの血が流れてるって言ったらどうだ?」
聞き取りにくい、らしくない掠れた声だった。
 
実は未来から来た子孫だって!

そんなはずはないから…でも、鎌をかけてみる。
「なるほど、わかったよ。ちょっと不思議な気分だよ。でも、おかげで女の子らしいカオルが見れたし献血のおかげだね。で、事故でもしたの?どこ怪我したの?そんな輸血するような事。でも見た感じどこも怪我した感じしないし、よかった…」
言い終わる前に痛快な打撃音。もしボクが眼鏡してたら大変だろうな、痛みがゆっくりと広がる。
作品名:ブラッドリンク 作家名:浅日一