プラネットホーム
トンボの後姿を見えなくなるまで見送って、プルートはプラネットホームの外へと出た。
この星でもっとも巨大な建造物、プラネットホーム。宇宙への玄関口にしてこの星の中心地。その巨大な半透明のドームの中には数え切れない思い出が詰まっている。プルートがこの身を得たのもあの場所の地下深い研究室だ。
その巨大なドームから離れて、果てのない広大な草原に寝転ぶ。心地よい風が、この星全体を渡っていく。ここからなら、船が飛び立つ姿も見えるだろう。
「いってらっしゃい、私の子どもたち。」
一瞬、莫大な光の束がプラネットホームから宇宙に向かって伸びる。すると、宙を渡る船が光の航路を行くかのようにホームから飛び出していく。その姿は一瞬にして宇宙の彼方へと消え去った。
プルートはそっとシャボン玉を吹く。手作りの特製のシャボン玉を。
浮かび上がったシャボン玉は、ドームに邪魔されることなく宇宙を目指して飛び上がっていく。腹の底から声を絞り出して叫ぶ。
「いってらっしゃ~い!」
風が吹いた。プルートは微笑みを浮かべてシャボン玉をめいっぱい吹いた。旅立つ船の選別のために。再会を誓うために。
幾百ものシャボン玉が空を埋め尽くす。いくつもの色が溶け込んだ虹色の玉が、風に乗って、もはや惑星からただの星となった冥王星の空を踊るようにして飛んでいく。そうして小瓶の中が空になるまでシャボン玉を飛ばして無邪気に遊ぶ。最後の一滴まで使ってシャボン玉を吹くと、一息ついて、シャボン玉が舞う空を見上げた。
幾千ものシャボン玉、その一つ一つに、たった今旅立って行った人々の笑顔が浮かぶ。
最後まで手の掛かった、彼の顔も。
「いってらっしゃい。私の愛しい息子。」
プルートはそっと目を閉じた。
風が吹いている。シャボン玉を地平線の向こうまで運ぶであろう、やさしくも強い風が。
風が吹き去ったとき、そこにはただ小さなストローと空の小瓶だけが空を向いたまま残っていた。
『PLUTO』
原案:井中蛙、脚本協力:風葉一