伝説の……
K:key――鍵はたいてい一番使い慣れたポケットから無くなるんだ
夕立は三日連続でグランドを水没させた。金土日と。
そしてそれはつまり、俺の学校でのサバイバル生活が三日間続いていることを意味している。まさか、金曜の創立記念日と土日の期末テスト前部活禁止期間とが重なるとは思ってもみなかったが、それ以上に誰一人として学校に来ないというのが予想外だった。
この学校の生徒と教員のやる気に文句を言うのは後回しとして、まとも食料が無いのは死活問題だ。自由に動き回れる割に、さすがというかなんというか、要所要所はキチンと戸締まりされている。保健室、職員室、食堂、家庭科室、理科室、放送室。
助けを呼ぼうにも充電をしてなかった携帯はのんびりしてる間に力尽き、電話があるような部屋はしっかり施錠、公衆電話はあっても小銭がない。おかげで堅い床で寝て、教室のロッカーから非常食代わりのお菓子を拝借して凌ぐしかない日々。こんなところで蜂蜜に感謝する日が来るとは。連中は準備がいいというか、管理が適当というか、……腐ってないだろうな?
図書室まで閉まっているから、読む本もない。MDも、最後に『Yesterday』を流してる途中で力尽きた。当然ながら、テスト勉強をする気などおきやしない。
仕方なしに教室でひとり、目を閉じて物思いにふける。なんだ、青春みたいじゃないか。
遠い昔、街の外れ、川の流れ(まだ怖くなかった頃)。あの時、手を伸ばしたのは何故だっただろう。女の子の泣き声と途切れる意識。――そして、吹き込まれた温かい空気と、彼女の頬からこぼれ落ちた熱い涙。
あの時から、大切な何かを忘れたままだ。きっと大切なものだった。
きっと、大切な誰かとの、約束だった。