天上の夢
「扉の陰に伏せろ!」
アレクセイの鋭い声が飛んで、私は扉から顔を出すのをやめて身をひそめた。
くぐもった悲鳴が聞こえた。肉を切り裂くような音、なにかがひしゃげる音。ひどい悪臭があたりに漂った。
ややあって、アレクセイはそろそろと身を起して広間に入った。私も危険は去ったのだろうと判断して、事件の起こった場所に近づいた。
まず目にしたのは、私の見知った人の死体だった。エルトリードをはじめとする儀式の参加者と、おそらくゴリアスの雇った使用人たちはすべて喉や腹を切り裂かれて死んでいた。どのように殺したかについては、やはりこちらは頭部の大部分が潰れ、八つ裂きのような状態になったゴリアスが血に塗れた魔術剣を握りしめていたことで、説明がつくだろう。
「いったい何が起こったんですか?」
私の問いに、アレクセイは少し考えこんでから言った。
「彼らは結局、求めていたものではなかったのだろうが本当に彼らの想像を超えた存在を呼んだのだ。呼びかけたから来たのか、それともただの気まぐれなのかは永遠にわからないだろうが。しかし、このような接触はえてして不幸を招くものさ」
彼は床に乱雑に散らばっている、彼自身が売りつけた品物を拾い上げた。
「この石を見てみろ。あの存在がやってきたために、この石はあの存在のいる空間と繋がったぞ。嘘の霊験で売りつけた品物が本当に力を持ったのだ。素晴らしい」
アレクセイは曇った水晶の原石を私に見せた。私が前に見たとき、それは磨いていないために曇っていたのだが、今は別の、中心で揺らめく何かのために曇っているように見えた。
「力、ですか?」
「そうだ。今は危険だが、少し時間をおけばこれで異世界が覗けるようになる。運が良ければ、なにか役にたつものをここから呼び出すこともできるだろう。どうするかはまだ考えていないが……」
アレクセイはそう言うと、今度は推薦状はどこだと言って広間から出ていってしまった。一方私は、死んで青ざめたエルトリードを見つめた。
この人を救うことはできなかったのか。この哀れな女性に私は何をしたのか。窓にかかっていた布を外すと、月の光が広間の惨状を照らしだした。これが彼女の望んでいたことの結末だとは、どうしても思いたくなかった。
勝ち誇った様子でアレクセイが死んだエルトリードの手による推薦状を手にして戻ってくるまで、私はそのような思いを抱いていたのである。