里美ハチ犬伝
◆番外
里美がテレビに映るハチを見て、はしゃいでいた頃、夜の公園で子供が這いつくばって、お腹の虫を鳴らしながら何かを探し続けていた。
「クソ……どこだよ、どこに落としたんだよ……オレ……」
その子供は“掛布博和”だった。
掛布は何を探しているのかと言うと……。
掛布の両親は共働きで、今日は両親とも夜遅くまで帰ってこないことになっていた。その為、掛布の家には誰も居らず、家に入るためには鍵のかかったドアを開けなければならない。
ドアを開くための鍵を掛布は持っていたのだ、夕方までは。
おそらく、掛布が里美の補助カバンを木の枝へと投げたはずみで、ポケットの中に入れていた家の鍵を落としてしまったのだろう。
家のドアの前で鍵が無くなったことに気付き、来た道を戻りながら鍵を探していた。そして、ここに舞い戻ってきたのだった。
鍵を落とした可能性が一番高いのは、ココだろうと目星を点けたものの、外灯の僅かな明かりだけでは見通しは悪く、ましてや手の中に納まるほどの小さな物を探すのは非常に困難だった。
いつしか涙目になり、
「あん時、里美のカバンなんか、投げなければ……」
自分のしでかした愚かしい行為に後悔した。
すると、
『おい、坊主。もしかして、この鍵を探しているのか?』
声の方を振り返ると、そこには犬らしき生き物が鍵を咥えていた。
「あ! それ、そ……!」
外灯に照らし出された、その生き物の姿を掛布はよくよく見るや、
「「「「どゥ、わっーーぁーーー!」」」」
悲鳴に似た叫び声をあげ、静寂の公園を切り裂いた。
掛布は、何を見たのか――
残念ながら、それはまた別のお話し。
今回の話しは、里美ハチ犬伝。
里美とハチ以外の“人”と“犬”のお話しは、次の機会にお楽しみください。
それは、いつか?
そうですね、それはまだ“伏”せておきます。
お後が宜しいようで。