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里美ハチ犬伝

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◆前置き



 犬も歩けば棒に当たる。
 犬が西向きゃ尾は東。
 犬猿の仲、負け犬、犬神家。

 あとはなんだったか……と、覚えきれないほど“犬”に関する言葉や熟語、諺などは数多くあります。
 それは古来より犬が、家畜として、そして良きパートナーとして、人間と深く関わってきた証明でもありましょう。

 それに人間の身体の一部に、犬の名が付いた箇所がありますね。
 そう、犬歯。

 門歯の両側に尖った歯を一般に犬歯と呼んでいますが、人間の犬歯は糸切り歯とも呼ばれています。
 それを犬歯と呼ばれる所以は、もちろん犬の犬歯からでしょう。

 ちなみに犬の歯は四十二本。
 他の歯も、犬歯のように鋭く尖っています。歯というよりも、牙といった方が相応しいでしょう。

 そんな鋭い牙をチラつかせている犬の食事光景をじっくり観察していると、食べ物はあまり噛まずに、呑み込んでしまっているのが解ります。

 犬の歯は、人間のように噛み砕くのではなく、切り裂くということに重点が置かれている仕組みとなっています。これは、狩りで獲った獲物の肉を引き千切りやすいように、進化したのではと考えられます。

 そもそも犬とは……、おっと。

 今回は、犬についての講釈やウンチクをたれるのではありませんでした。
 語るべきお話しは、ある一匹の犬と、一人の少女のハートフルで愉快なお話。

 それでは、はじま……。

 ああ、それと大切な事を忘れていました。
 注意事項を一つ。

 残念な事に、この話には猫が一切でてきません。
 もし猫好きな方が、ご拝読しているのでしたら、今すぐ犬好きになるか、猫と同じぐらい犬を好きになる。

 それか『犬』を『猫』と思うようにしてください。

 それは無理?
 何を仰いますか。猫と犬の遠いご先祖さまは、元々は一緒だという説があります。

 その証拠に犬は、“ネコ目”、イヌ科イヌ属に分類されている哺乳類。

 そんな訳で、犬を猫だと思っても何の問題はありません。

 ただ、その場合は人前で犬を見て、『あれは猫』だと、指差して言わないでください。

 言ってしまわれますと、アナタ様が指を差され、変な目で見られてしまいますので、ご注意してくださるよう、お願いします。

 さて前置きが長くなりましたが、本編を始めさせて頂きたいとおもいます。

 それでは『里美ハチ犬伝』の始まり、始まり―――


作品名:里美ハチ犬伝 作家名:和本明子