ときには映画の話を
窓の外には闇。そこにスクリーン。そこにあるのは夢の世界。甘いものと、素敵な太い眉毛。いつまでも変わらない僕ら。夢の世界。突然の暗転も含めて映画の一部なのだ。
変わらないわよと彼女の目が言っていた。
そうだろうなあと僕も思った。
さて、映画の時間だ。
僕らは連れ立って立ち上がる。いまさらのように彼女が僕のドーナツの皿を見下ろし、あきれて笑う。食べ終わってる。当たり前じゃないですかと僕が言う。まっさらな僕の皿。
僕は彼女のカップを見下ろし、顔をしかめる。残すぐらいならおかわりしなきゃいいじゃないですか。いいじゃないほっといてよ私の勝手でしょ。
そうして、店を出る。
暗闇のスクリーンの中に、二人で身を投げ出す。世界のすべてがそれで終わりになる。彼女と、僕と、映画と、暗闇。それが世界の全部になり、世界はとても単純になる。
そうしてそこは、確かに僕のための世界なのだ。
彼女があきれたように僕を振り返り、僕は、自分が笑っていることを確認した。
(2005/冬)