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恋の掟は夏の空

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     1979年 静劉と直美の夏


体育館の横の水のみ場で、頭から水びたしになりながら練習用のユニフォームを脱いでいると素肌の背中を大胆にもたたきながら、

「ねぇ、10時ちょうどに電話してくれる?」
「10分だけならいいよね、」
真っ白なブラウスの直美が無邪気に聞いてくる

「俺が今日もかけるの?」
「そっちから電話すりゃいいじゃん。時間にちょうどって大変なんだって ば」
 きっかりに電話しないで、何回彼女に怒られたことか。9時54分頃からこっちはいっつも、ハラハラしてるのに。

「そっちから、かかってくると、いい気分なんだよねー」
「でさ、おかーさんがね、彼氏から今日も電話ねって聞くんだよねー。それが好きなのよ」

夏休みに、バレー部の後輩の練習に付き合っている俺の周りには、その後輩が13人もいるのに、この子はそんなことは、ほんとにまったく気にもかけもしない。ましてや、今日はバスケット部の女子部員までも、何人もこの会話を聞いているのに。

「休みなのに、なんか、学校に呼ばれた?」
そう、今日は8月1日で、学校は休みだし彼女は、なにも学校に用事なんか、あるわけないんだ。

「顔を見にきただけだよ。だって1週間も会ってないじゃん。」
「ここまで、自転車20分もこいじゃった。」
「そのスポーツドリンクちょうだい」
言いながらもう、手は俺の左手にあったドリンクのボトルを取り上げてうまそうに飲みだしている。

「じゃ、帰るね」
ボトルを俺の鼻先に突き出して、笑いながら直美が立っている。

「もう、帰るのか?」

「うん。それだけだから、言いたかったの」
走らなくてもいいのに、お気に入りのバスケットシューズの音を軽快に響かせて
「みなさん、おじゃましましたぁ」
ちょこんと振り返り、ぺこりと、後輩や、女子バスケット部員に頭を下げる。

「先輩、私、藤木さん大好きなんです。言っておいてください。」
バスケ部のキャプテンがまじまじ、俺の顔を見て話しかける。

「自分で言ってね」
助かった。ここで、無言の時間があったら、どうしようかと思っってたところだ。
「こっちに、手振ってますよ。手振らないと先輩!」
バカな後輩が笑いながら言いやがる。

「あれね、あんたら、全員に手振ってるんで、俺にじゃないんだってば」
「手ふりなよ、おまえら」
ここで、こいつらが手をふらないと、夜の電話で、嫌われてない?私?とか絶対聞くに決まってる。
あわてて、関係のない、女子バスケット部員までも、手を振り出した。

「な、喜んでるだろ」

「ほんとっす」
「かわいいぃ」
俺は少しだけ、呆れた顔をごまかして彼女を見送った

「さ、あと、10分だけ、休憩」
「はぃ」
バスケット部員まで返事しやがった。

俺は、彼女がたたいた、背中の赤いあとをさわりながら、新しい練習用ユニフォームに着替える。付き合いだして、もう1年ったのか・・・

作品名:恋の掟は夏の空 作家名:森脇劉生