ほしのひかり
6
少年は走る。走る。山の側を通る。山のそばを通るのは友だちがそこでいなくなったからだ。危ないからとおってはいけませんといわれているのに通る。夜の闇。せまる夜。攫われたのなら俺も攫われたいと少年は思う。カエデどこへ行ったの。山に入ったのなら俺に気づかないかと少年は思う。そして少年を導きいれないかと。そして山を見上げる。
足元を見下ろす。
そして青い石を拾う。
「いいや君、これは石ではないよ、ここでは石と呼ぶのかもしれないが、私の知る限りではこれは生き物だ」
Xは光に透かし、石が透過する光を顔に受けた。青い光。
「これは生き物だ。わたしたちは体の中にこれをふたつ持っている。ひとつはもっとずっと大きいものだ。これはそれを補助する役目の小さいもの。生き物だ」
「……体の中にあるのに?」
「うん。体内に取り入れ、生体のメカニズムを調整する」
「なんででてるのそれ」
「これは仲間のものだ」
Xは、魚の声を聞いているようで、きいていないようでもあった。早口で喋った。魚にはよくわからなかった。喜んでいるようには見えた。驚いているようにも。透過する、光。
「……これは仲間のものだ。仲間はわたしを捨てるとき、これも一緒に捨てていった、こんな声で鳴く生き物だとは知らなかったな、模型でしか見たことはなかったから」
「大丈夫なのその人それ捨てて」
「うん。これは補助する役目のものだから。なくても困らないし、あるにしてもひとつで十分だ。もし仮にわたしが、わたしがこれを飲み込んだとしたら、体の中で生存競争が起こって、どちらかがどちらかを食べるだろう、そしてひとつになる」
そしてひとつになる。
そう言ってXは口を開いた。
のみこんだ。
魚は耳を澄ます。Xも耳を澄ましている。Xの能力が写ったように何故か分かった。Xが耳を大きく広げている。りりりが聞こえる。遠くなる。りりり、り、その代わりに、何か、声。
星の声を聞きましたか。
誰かの声を聞きましたか。
あなたの声を聞きましたか。
誰かの声を聞きましたか。
星の声を聞きましたか。
わたしの声を聞きましたか。
「うん」
Xは、頷いた。
誰かが月のむこうにいるかのように、それに向かって頷いた。
「……君の事を怒ってはいないよ」
託宣のように。
呟いた。
そうして、さて、と言った。
「さて、カエデ君を発見してもらおうかね君」
開いたままの携帯電話をつかんだままの指を、魚は見下ろす。それからXに視線を移す。いつまであんたぼろぼろのまんまなんだよと、大き目の声で言った。
「それともあんた、山本楓として発見されて、山本家の子供として生きてみる、これから?」
「……可能だろうがそれよりも猫案を取りたいな」
「ふうん」
「君は一日に二人を救助したわけだ」
「は」
魚が首をかしげると、Xはカエデの顔で、笑って見せて、
さあ、帰ろうか、全員、と言った。