告白
獲物を狙う猛禽類のようにぎらりとこちらを睨め付けました。四度目の呪いではいよいよその唇が真っ赤に引き裂かれ、背景は全て黒く塗りつぶされました。そして五度目の呪いで彼女は……。
K様、私は何も彼女の命を奪った訳ではないのです。しかし私は彼女と言う人間を殺めました。これは真実なのです。彼女は自画像と真剣に向き合いました。自分のみを見続けておりました。人は他人と己を比較する事で、己の形を認識出来る生き物です。自分だけを見ていては、何も分からなくなってしまうのです。彼女は自分の輪郭すら見失う程に、真剣にカンバスに向かったのです。そこで彼女が比較できる他者は私だけでした。そう、彼女の自画像は私なのです。おぞましいあれは自画像では無く、私の肖像なのです。あの恐ろしくも忌まわしい存在が……! けれど彼女はそれを自身だと思っておりました。そうして描き上げた後の彼女は……。
どうしてこのような事を忘れていたのでしょう。人の心を、その精神を破壊したというのに、どうして私は何食わぬ顔で生きてこられたのでしょうか。M美術大学を卒業し、広告会社に入社してあなた様と出会い、そして結婚を申し込んで頂きました。幸福の絶頂の最中にどうして思い出したのでしょう。結婚という転機において、自分自身を、その歩んできた道を振り返りでもしたのでしょうか。ああ、K様。今も私の髪は黒く、肩で切り揃えられているのです。私の肌は白く唇は赤く瞳は大きく、こんな私をK様は可愛い人だと仰って下さいました。こんな私をです。なぜ私は記憶の中の彼女と同じなのでしょう。あれから何年も経っているというのに。私は彼女の描いた自画像のままなのです。どろりとした女なのです。私は私は私は……。
K様、私が贖罪が欲しくて書いたわけでは無いという事が、ここまでお読み下さったあなた様ならば、もう十分にお分かり頂けた事と存じます。
K様、私は傍にいる人間をきっと殺めます。そしてまた私と言う人間は誰かを狂おしい程に愛す時、私という存在を殺めるのです。過剰な自己愛で己の心の周りに高い壁を築きあげています。しかしその壁は全て鏡で出来ているのです。鏡に映る自己でもって私は私を守っているのです。この拙くも悲しい精神を! 嘲笑の対象にしかならぬ狂愛を!
K様、私は何も彼女の命を奪った訳ではないのです。しかし私は彼女と言う人間を殺めました。これは真実なのです。彼女は自画像と真剣に向き合いました。自分のみを見続けておりました。人は他人と己を比較する事で、己の形を認識出来る生き物です。自分だけを見ていては、何も分からなくなってしまうのです。彼女は自分の輪郭すら見失う程に、真剣にカンバスに向かったのです。そこで彼女が比較できる他者は私だけでした。そう、彼女の自画像は私なのです。おぞましいあれは自画像では無く、私の肖像なのです。あの恐ろしくも忌まわしい存在が……! けれど彼女はそれを自身だと思っておりました。そうして描き上げた後の彼女は……。
どうしてこのような事を忘れていたのでしょう。人の心を、その精神を破壊したというのに、どうして私は何食わぬ顔で生きてこられたのでしょうか。M美術大学を卒業し、広告会社に入社してあなた様と出会い、そして結婚を申し込んで頂きました。幸福の絶頂の最中にどうして思い出したのでしょう。結婚という転機において、自分自身を、その歩んできた道を振り返りでもしたのでしょうか。ああ、K様。今も私の髪は黒く、肩で切り揃えられているのです。私の肌は白く唇は赤く瞳は大きく、こんな私をK様は可愛い人だと仰って下さいました。こんな私をです。なぜ私は記憶の中の彼女と同じなのでしょう。あれから何年も経っているというのに。私は彼女の描いた自画像のままなのです。どろりとした女なのです。私は私は私は……。
K様、私が贖罪が欲しくて書いたわけでは無いという事が、ここまでお読み下さったあなた様ならば、もう十分にお分かり頂けた事と存じます。
K様、私は傍にいる人間をきっと殺めます。そしてまた私と言う人間は誰かを狂おしい程に愛す時、私という存在を殺めるのです。過剰な自己愛で己の心の周りに高い壁を築きあげています。しかしその壁は全て鏡で出来ているのです。鏡に映る自己でもって私は私を守っているのです。この拙くも悲しい精神を! 嘲笑の対象にしかならぬ狂愛を!