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告白

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 私は彼女を慰めました。それは己の心をも慰める事の出来る行為でしたから、私は大変気に入っておりました。折を見ては彼女を慰め「大丈夫、あなたには才能があるのだから。私にはないけれど、あなたにはあるのだから。だからあなたは選ばれるべき人間なのだ」と繰り返し繰り返し、まるでそれが何かの呪(まじな)いのように囁き続けました。彼女はそんな私にそっと優しく微笑むのでした。けれど……けれどです、K様。彼女はその後も何度も様々な賞に作品を送ったのですが、どれも落選したのです。ただの一度たりとも浮かび上がる事は無かったので御座います。彼女には才能など無いのだとお思いでしょうか? それは違います。彼女には確かな才があるのです。私にはそれが分かるのです。ですから私はいつもいつも彼女を慰める役を買って出ておりました。それは心から彼女自身を慰める為では無く、彼女より優位に立てるという快感を求めているのだという真実には目を背け、私は彼女の親友としてそこに存在しておりました。「大丈夫、あなたには才能がある」何度この言葉を彼女に向けた事でしょう。彼女は何度落選したでしょう。落選の度にこの呪いを聞かされた事でしょう。そう、これは呪(のろ)いです。まじないでは無く、それはのろいで御座いました。彼女に才能があったかどうか、今ではそれも分かり得ません。しかし世間に認められる類の物では無かった。少なくとも今のこの時代では。彼女は彼女の全てをこめて最後の制作に取り掛かりました。それが認められなければ筆を捨てるという覚悟でもってです。彼女の最後の制作は自画像でした。白い肌に肩で切りそろえた黒い髪、大きな瞳に赤い唇の美しい彼女の姿がカンバスに描かれていきます。けれど彼女の筆は何度も何度も止まるのです。当然です。彼女はこれが認められなければ全てを捨てると言うのですから。何度も迷うのです。幾度も惑うのです。そうして筆が止まるのです。私はその度に彼女に囁きました。あの呪いの言葉を。「大丈夫、あなたには才能がある」という忌々しい言葉を。彼女はその言葉を聞くたびに小さく微笑み、そしてまた筆を走らせるのです。一度目の呪いでは彼女の肩で揃えられた美しく黒い髪が長く長くカンバスいっぱいに伸びました。二度目の呪いでは彼女の透けるような白い肌が青と灰で染め上げられました。三度目の呪いでは燦然と輝く大きな瞳がより一層大きく描かれ、
作品名:告白 作家名:有馬音文