告白
事は私がまだM美術大学に通っていた時分の話で御座います。当時の私が真剣に画家を目指していた事は、K様もご存じの事と思います。私には友人がおりました。彼女もまた画家を目指しており、そしてその才能は私とは比べ物にならないものでした。私が努力の人ならば、彼女は才能の人でした。そしてその才はいかに私が努力しようとも、決して追いつける様な物ではありませんでした。私は羨望し、そして当然のように嫉妬致しておりました。その気持ちを浅ましいとお笑いになって下さって構いません。しかし私とて真剣だったのです。真剣にカンバスに向かっていたのです。彼女が何気なく描いたものであったとしても、私にとっては筆の一筋一筋その全てが憧れだったのです。眩しく妬ましいものだったのです。このような残酷で冷たく燃える心など、あなた様にはきっとご理解して頂けないのでしょうが……。それでも私は記さざるを得ないのです。ある時の事です、彼女は某美術賞(あの有名な賞です)に油彩を出展致しました。誰もかれもが彼女の受賞は間違いないと、欠片も疑っておりませんでした。勿論、私もその一人です。私も彼女はこれで遠い存在になるのであろうと、そう思っておりました。そしてそれは寂しくもあり、また嬉しくもありました。嬉しくと言っても彼女の栄光を喜んでいるのではありません。私は己がもう彼女と比較し、それに嫉妬し絶望する事が無くなる事を喜んでいたのです。彼女と共に過ごすのは、私にとってとても苦しいものだったからです。けれど離れる事は出来ませんでした。何故ならば私は彼女の絵を愛していたらからです。この深い泥のような思いは、その後も私をずっと苦しめる事になるのですが……。結果を申しあげましょう。彼女は落選致しました。受賞はおろか選考にすら残りませんでした。彼女は嘆き、私は歓喜致しました。私は優しい仮面を付けて彼女に近付き言いました「選考員に見る目がなかったのよ。本当はあなたが誰よりも素晴らしいわ」と。ここまでお読み下さったあなた様ならば、もうお分かりのはずです。その時の私の心に浮かびあがったあの優越感! 私という人間は彼女という人間よりも遥かに劣っているというのに、あの時あの瞬間、確かに私は彼女より優位でした。落ち込む彼女の肩を抱き、優しく微笑みすらしました。彼女が私の肩に涙を零したその時、私は背筋がゾクゾクとする程の喜びに打ちのめされて