チョコレートをたべたさかな
『あるよー。ちょっと高いけど、本命チョコにふさわしいのが』
デパートの地下一階。あふれる人の波。
「うわ、すっごいね・・・」
腰の引けている彼女の手を引いて、私は不器用に人波を泳ぐ。
すいす・・・おっとと・・・すい・・・すいませんごめんなさいとおしてください・・・
やっとたどり着いた、高級チョコレート専門店。
形も様々なチョコレートは、あの時と同じように鎮座している。
「へー、これ?どれも美味しそうだねえ」
感心する彼女の横で、私は、季節限定品を眺めた。
「すいません・・・これ、この間はなかったようなんですが?」
「はい、こちらは、昨日から売り出したばかりでして」
店員のよどみない説明を聞き流しながら、私は自分の財布の中身と相談する。
「ええと・・・一種類ずつ、ください」
「かしこまりました。ご自宅用ですか?」
「あ、いえ、贈り物・・・バレンタイン用・・・です」
私の言葉に、彼女が振り向いた。
店員が、丁寧に箱詰めする間、彼女は小声で聞いてくる。
「それ、本命?」
「・・・うん」
「誰にあげるの?」
「ナイショ」
「先輩にあげるの?」
私は、じっと彼女を見つめた。
彼女の目が、私を見つめかえす。泣き笑いの顔。
私は、代金を支払いながら、言った。
「ううん・・・違う人」
バレンタイン当日。
「ぶちょー!!これ、女子全員からでーす」
語尾にハートマークをつけて、部長にチョコレートの包みを渡す。
「ええ?みんなから?こりゃ、お返しが大変だなあ」
「期待してまーす!!」
とっておきの営業スマイルを向けてから、私は自分の席に戻った。
さっと周りを見回してから、リボンをかけた小箱を取り出す。
「値段と大きさが比例しない・・・」
ぶつぶつ言いながら、用意しておいたカードを添えた。
彼が席を離れたのを見て、私は急いで机に近寄る。
引き出しを開け、そっと箱を滑り込ませた。
「あんたこそ、破裂する前に吐き出しなさいよ」
そう呟いて、見つからないように、こっそり自分の席に戻った。
チョコレート好きの少年へ
チョコレートを食べたさかなより
Stay with me forever
終わり
作品名:チョコレートをたべたさかな 作家名:シャオ