八国ノ天
ゴズと寿野にとって、娘が最後にしっかりと返事した――それで十分だった。
「うわぁあん!」
思いっきり泣いた。
しばらくして、こずえが落ち着きを取り戻すと、ゴズは言った。
「木沙羅、八……国は任せた……ぞ」
「はい」
木沙羅が返事すると、ゴズは安心したのか微笑むと――、
こずえの手からゴズの手が離れる。
「父上! ううっ……」
キアラが木沙羅の肩に手を置く。
木沙羅は立ち上がった。
「行きましょう」
こずえは振り返らなかった。一歩また一歩と、歯を食いしばり両拳を握り締めていた。でも、涙が止まらない。
炎とともに崩れ落ちていく城を背に木沙羅たちは、目の前の戦場へと向かった。
夜にも関わらず、外に出るとあたり一面、炎に包まれていた。
火の粉が舞い、泣き叫ぶ声やうめき声が風にのって聞こえてくる。
アトゥイの姿は無かったが、王を失った伊都の軍はもはや、軍隊の体を成していなかった。
民だけでなく兵も一緒になって、何かから逃れるように一つの方角へ向かって去っていく。
逃げまどう人たちの会話が聞こえてくる。
「アトゥイの粛清は本当にあったんだ。あいつら間もなく来るぞ。もう北しか逃げ場はない。向こうの海も、山もあいつらがいる」
「南の国は壊滅したって話だ」
すぐそばを駆け足で過ぎて行く集団を横目に、ヴェールを被りながら木霊が皆に問う。
「どうする?」
「一鉄は伊都に向かうと言っていた」
「俺たちも伊都に向かおう。官兵衛たちもきっと、そこにいるだろうからね」
愛耶愛とキアラが答える。
キアラは城内の厩から一頭の馬を引き連れ、鞍を固定させる。
木霊はこずえを打き抱えるようにして、前に乗せると自分自身も鐙に足をかけ、こずえの後ろに跨り手綱を掴む。
愛耶愛の後ろには木沙羅が抱きつくように乗っていた。
「よし、みんな行こう!」
キアラを先頭に五人は伊都へと向かった。
(つづく)