Zero field ~唄が楽園に響く刻~
真剣にテオドリスを睨みつける。声は少しきつめだ。
テオドリスは目を瞑って静かに答える。
「洞窟に置いてきたわ」
フィルは無言でテオドリスに掴みかかると、本気で殴りつける。
「今頃魔物どもにたかられて居るじゃろう、洞窟の魔物は夜になると大きいやからが増えるからのう、危険じゃろうて」
嘲笑うかのようにそう続けるテオドリスに、フィルはまた無言で殴りつける。
掴みかかられたまま離さない為、衝撃が体全体に響き、さっきショウに付けられた傷が開いたところもある。
フィルはギリッと言うほど歯を食いしばり、何も言わずにただテオドリスを睨みつけている。
掴みかかっていた手を離すと、部屋を出ようとドアノブに手をかける。が、テオドリスが嘲笑う。
「あの程度では、世界どころかそこの娘も救えぬのじゃ、一人で帰ってこれぬようでは、尚話にならぬわ」
フィルはテオドリスの即頭部を全力で蹴り飛ばした。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」
どこだか分からない暗い真っ暗な部屋で、大きい非常に大きい声で悲鳴にも断末魔にも聞こえるものがその部屋を支配したのだ。
「あ゛ぁ゛!あ゛ぁ゛ぁ゛!」
涙を零しながら小刻みに体を震わせている。
「私の!私のぉ!あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛!」
声が枯れてしまいそうなほどに荒い声で叫んでいる。そして、ゆっくり立ち上がるとその部屋から姿を消した。
―――許さない―――
「ここは…どこだ…」
かすれる様な声でゆっくりと立ち上がり周りを見渡す。
体に傷は何一つ付いていない。ただ、生命力に等しい魔力が著しく消耗しているようで、とても弱っている。
このような状態では、とてもじゃないが魔物に襲われてもすぐにやられてしまうであろう状態だ。
「ゴォオオオオォオオオオオオ!」
「魔物の…声…チッ…頭が…武器は……」
二本の剣が地面に突き刺さっており、共鳴していた。
「フェザー…スカイ…そうだな、戻らないと…きっとここは…テンが刺された場所だ……お前達が共鳴してるって事は…あいつは生きてる…だろ?」
小さく笑うと、テンが作り上げた双剣フェザー・スカイを引き抜く。と、それと同時に馬鹿みたいにでかい大型の魔物が現れた。
タートル(老亀型)で二足歩行で、腕の力が強靭で、一撃でも食らえば普通の人間では一溜まりも無く、運が悪ければ即死できるほどである。
先ほどの声もこの魔物のものであると考えて間違いは無いだろう。
「ゴオオォォォォォオオオ!」
右腕の攻撃が頭上から降ってくるが、ショウはよろめきながらも横に避ける。
続けて左のアッパーが襲い掛かってくるのを見て、うまい具合に魔物の腕に乗り上げ、さらに上に飛び上がる。
「共鳴」
と呟くと、双剣が一瞬強く光ると、魔力を込めてもいないのに魔力を帯び始める。
『私頑張ったのよ!その剣ね、魔力を貯蓄できるんだから!もし、もしも、魔力がまともに使えないほどに消耗したら…無いと思うけどね』
頭の中でテンの声が思い出されていた。
まさかこんなところで役に立つとは思っていなかった。しかし、これは貯蓄が出来るが、自分に戻す事は出来ないようだ。しかし、それでも十分なようである。
魔物の両腕の攻撃が襲い掛かる。だが、双剣を振るうだけで、膨大な魔力があふれ出し、魔力の刃が両腕の攻撃を寸前で留めた。
「…流石はタートル、コウラだけじゃなく、皮膚も硬いと来たか…だが、タートルの弱点は知ってんだよ…!」
着地と共に、痛みで少し怯んでいる魔物の懐に走っていく、普段の切れの良い速さは感じれないが、それでも魔物に気付かれる前に潜り込むのには十分な速さであった。
「んじゃ、コイツでも…食らってろ!」
コウラの腹の中心部に回し蹴りを2回加え、左の剣を突き刺しその剣を蹴って上に飛び上がり、顎を蹴り上げ、そのまま右手の剣で、魔物ののどぼとけから下へと縦一文字にした。
「…かすかに覚えてる…俺が魔力に溺れて暴走していたのが…テンが剣士に連れていかれた…いや、助けられたのも…
俺が置いていかれたのは…きっと…世界…そんな大きい物なんて救えなくても良い、だた、あいつを守れるだけの強さ、ここから一人で帰ることから始めよう…」
続々と魔物が集まり始めているのを感じ取り、タートルの魔物が断末魔をあげて倒れるのを背に、帰り道を塞ぐ魔物たちに突っ込んでいった。
.おまけ.
「「ジャンケンポン!」」
気合の入った声が辺りに響く、それと同時に出されたのは全力のグーと全力のグーである。
「あいこで…」
「「しょ!」」
今度もまた、チョキとチョキである。
「「しょ!」」
今度はパーとチョキ、女が勝者となった。
「あっちっ向いてホイ!」
大きく右手を振りかぶって勢い良く下を指差す。
対する男は右を向いていた。
「くぅ…!いい加減落ちなさいよ!」
「お前もいい加減落ちろ!」
「ねぇ、二人ともぉ〜一回のあっち向いてホイだけで、どんだけ時間使ってるのぉ〜?」
実は既に10分以上やり続けており、それをずっと眺めている女の子が段々飽きを感じ始めていた。
「エイナー…これは私…負けられない戦いなの!」
「そうだ!これで負けてしまえば恐ろしい事になってしまうんだ!」
「クロナ…ヴン…ただエイナーの食費を持つだけじゃないのぉ…?」
「「それが、(懐的に)負けられない戦いの理由!」」
そう言うと、全力のあっち向いてホイはさらに5分延長されたのだが、途中から物凄いスピードでやっているにも関わらず。
全く勝負は付かない、むしろ付かない事の方が可笑しいくらいに付かない。
そもそも、あっち向いてホイをそんなに続ける前に勝負が決まるものである。
打ち合わせをしているのじゃないかと思うくらいに続く。
結局の勝敗はと言うと…。
「あっちむいて…」
「おー!なー!かー!へー!ったー!!!」
と言うエイナーの叫びにより、ジャンケンで負けたクロナもジャンケンで買ったヴンもエイナー方を向く。
クロナは左を向いており、ヴンは右を向いている。そして、指もついでに右を指していると言っても良い。
つまり、向かい合っている二人にしてみれば、これは勝負があってしまったのだ。
「「あ」」
「クーローナ♪散々待たせたからいっぱい食べさせてね♪」
「はぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜」
物凄い長いため息と共に、膝を崩すのであった。
作品名:Zero field ~唄が楽園に響く刻~ 作家名:異海 豹