北の山中に人魚を見た!?
「違う違う。ずーっとずーっと前から。あのせいで、誰も登ってこれないんだよね。湖を綺麗に保つ為なんだけど、そのせいで退屈で退屈で」
よっぽど退屈だったのか、その後、僕達は日が暮れるまで彼女に質問攻めにされた。
「あー、やっと帰れる」
ふもとの駅までやってきて、僕はため息をつく。
次から次へと質問され、すっかり喉がからからだ。
「で、相良に頼まれた記事は書けそうか?」
遠野に言われ、僕は、自分が何故山に来たのかを思い出す。
「あ・・・えーっと、相良には、「山に入れなかった」って、言っておく」
「ふーん」
遠野は、それ以上何も言わなかった。
僕は、あの綺麗な湖を思い出していた。
相良の「チョコレート鶏」は、新製品の鶏型チョコだったらしく、チョコレートの卵とセットで売りに出されるそうだ。
僕のほうには期待していなかったらしく、特に追求せずに「チョコレート鶏」の試供品をくれた。
そんな話も忘れかけた頃、僕は、遠野に誘われて、日帰りバスハイクに参加していた。
「あれから、あの山に行った」
唐突に言われ、僕は「あの山」がどの山を指すのか、すぐには分からなかった。
「あの・・・ああ、北の?」
「写真渡してきた。後、袋ラーメンも」
「へえー。喜んでた?ていうか、元気そうだった?」
僕の言葉に、遠野は肩をすくめ、「相変わらず」と言う。
この様子では、また長時間、質問攻めにあったのだろう。僕は、思わず笑ってしまう。
「お前によろしく言ってくれって。今度、お礼するって言ってた」
「ふーん」
ツアー客は、ガイドに連れられて、山の中の、有名な滝の近くまでやってきた。
「皆様、この滝には、悲しい恋の物語が・・・」
ガイドが名調子で説明する中、遠野が僕をつつく。
何事かと遠野を見ると、目線で茂みを見るよう促してきた。
僕がそっちをみると、なんと、ネレイドの彼女が、にこにこ笑いながら手を振っているではないか。
思わず固まっていると、彼女は滝を指差す。
ガイドの説明も最高潮に達し、ツアー客に滝に注目するよう促した。
全員が、滝に視線を向けた瞬間。
流れ落ちる滝の水が、全てラーメンに変わってしまった。
終わり
作品名:北の山中に人魚を見た!? 作家名:シャオ