FLASH
鷹緒はそう言うとソファに座り、缶コーヒーを口につけた。沙織もそれに続いて別のソファに座り、コーヒーを飲む。すると視線の先に、本棚に入っているレンズのない眼鏡が見えた。
「あっ!」
思わず叫んだ沙織を、鷹緒は怪訝な顔をして見つめる。
「なんだよ……」
「忘れてた! この間、おばあちゃんの家に行ったよ」
その言葉に、鷹緒は一瞬きょとんとした。
「ふうん……それで?」
「それでって……いろいろ聞いちゃった。鷹緒さんが、あそこに住んでたこととか」
「ん……元気だった? 伯父さんも伯母さんも……」
少しバツが悪そうにしながら、鷹緒が尋ねる。
「うん。でも、連絡くらいしてあげたら? 全然連絡くれないって、ちょっとグチってたよ、おばあちゃん……母親代わりなんでしょ?」
「……どこまで聞いたんだよ……」
顔をしかめてそう言いながら、鷹緒はソファに寝そべった。沙織は渋い表情の鷹緒に首を傾げながらも、祖母に教えてもらたことを思い出す。
「どこまでって……高校時代に、おばあちゃんの家に引き取られて住んでたとか、カメラを始めたきっかけは、おじいちゃんだとか、その程度かな」
「ふうん……なに、家族と行ったの?」
「うん。私もすごく久しぶりだったんだ。今までお父さんも仕事で忙しかったし、お兄ちゃんや私も受験とかなんだで行けなくて……今年はお父さんも私も同時期にお盆休みもらえたし、お兄ちゃんも帰ってくるってことになったから。一泊だけど、すごく楽しかったよ」
「そうか……」
鷹緒はそのまま、目を閉じた。
「鷹緒さん。寝ちゃうの?」
「いや、なんかだるい……」
「……寝るなら、寝室行った方がいいよ。私ももう行くよ……」
そう言って、沙織は立ち上がった。
「ああ……」
沙織の言葉に起き上がるものの、鷹緒はソファに座ったまま目を閉じて、呼吸を整えるように深呼吸している。その様子を見て、沙織は鷹緒に近付いた。
「具合悪いんですか? だるいって……」
「ああ、平気。いつものことだから……」
「いつものことって……熱は?」
沙織が鷹緒の額に手を近付ける。一瞬触れた額には、じわりと汗が滲み、とても熱かった。
「いいって!」
そんな沙織の手を、鷹緒が払い除けた。沙織は口を開く。
「よくないよ! すごい熱じゃない。ごめんなさい、気付かなくて……一緒に病院行こうよ。確か、近くに救急病院……」
「いいよ。明日行くから……」
「……絶対行かないでしょ」
「よくわかるな」
笑って鷹緒が言う。沙織はめげずに、鷹緒の腕を掴んだ。
「いいから、行こう」
「ただの風邪だよ」
「ただの風邪でも駄目」
「うるさいな……おまえに関係ないだろうが。さっさと帰れよ」
うんざりした様子で鷹緒が言った。その言葉に、沙織はカッとなる。
「関係ないわけないじゃない! 私は鷹緒さんの親戚だよ。それに私まだ、鷹緒さんのこと好きだもん!」