FLASH
「わかる。僕もだよ」
広樹も苦笑して言う。その時、鷹緒が帰ってきた。
「ただいまー……」
「静かに! 電話の音が聞こえなかったらどうするんだよ」
慌てて広樹が言った。鷹緒は一瞬、怪訝な顔をして、奥へと入ってくる。
「……馬鹿馬鹿しい。みんなして何やってんだか。電話使っていいか?」
「馬鹿はおまえだ! 少しは考えろよ!」
「なんだよ、ピリピリしやがって……」
鷹緒はそのまま奥の社長室へ向かい、携帯電話をかけているようだった。
その時、約束の七時になった。一同は落胆の顔を見せる。そばにいた沙織も、申し訳ないといった表情である。
「まあ、よくやったよな……」
「そうだね。残念だけど……」
「おい、広樹」
落胆している一同をよそに、鷹緒が社長室から出てきた。広樹は珍しくイライラした様子で、鷹緒に振り向いた。
「なんだよ、おまえは……」
「シンコンのファイナルだけど、沙織の衣装どうすんだ?」
「衣装って……落ちたのにか?」
「え? まだ連絡いってないのか?」
その時、電話が鳴った。慌てて広樹が電話を取る。
「はい、WISM企画プロダクションですが……」
『遅くなって申し訳ありません。全日本・ミス・シンデレラコンテストご応募の、小澤沙織さんの事務所さんでよろしいでしょうか?』
慣れた様子の、男性の声だった。
「はい、はい。そうです!」
『遅くなりましたが、おめでとうございます。小澤沙織さん、合格です』
「本当ですか!」
『はい。つきましては、来週グランプリファイナルがございますので、よろしくお願い致します。詳細につきましては、これからファックスをお流し致しますので』
「わかりました。ありがとうございます!」
広樹は電話を切った。そして鷹緒を見つめる。
「鷹緒、おまえ……知ってたな!」
「当然。俺はシンコンのカメラマンだぞ?」
苦笑しながら鷹緒が言う。しかし一同はホッとした様子で、口々に歓喜の声を上げた。
「本当ひどいわ、鷹緒さん! でも、ということは、沙織ちゃんはファイナルに行けるってことよね?」
「そうだよ。やったね!」
「ああ、よかった……」
沙織も胸を撫で下ろした。そんな沙織に、鷹緒が微笑みかける。
「悪かったな。言えなくて……」
「……いつから知ってたの?」
「ん……今朝だよ。追加の写真を提出しに行ったら、ちょうど集計が終わったところだったわけ。まあ、身内でもしゃべっちゃいけないのがルールだからな……悪かったよ」
苦笑しながら、鷹緒が言った。
「よかった……」
「よし、じゃあ今日は、パーっと飲みに行こう!」
「賛成!」
一同は、そのまま近くの小料理屋へとなだれこんでいった。
沙織は受かってよかったという安堵感と、決勝まで残ってしまったという荷の重さに、少し不安な表情を見せていた。
「沙織。疲れてるか?」
飲み会が終わり、店を出たところで、鷹緒が沙織に尋ねた。
「え? ううん、大丈夫……」
「じゃあ、ドライブでも行く?」
突然、鷹緒がそう言った。思わぬ誘いに、沙織は大きく頷く。
「え? う、うん!」
「ええ、いいなあ」
茜が羨望の眼差しで見つめる。
「おまえは一人で帰れ」
鷹緒が言う。
「まあ、今日は沙織ちゃんが主役だもんね……おとなしく帰りますか」
「おう。じゃあ、お先に」
そう言うと、鷹緒は沙織を連れて、駐車場へと向かっていった。
「どうしたの?」
車に乗り込むと同時に、沙織が尋ねる。
「べつに? ただ、もうすぐファイナルじゃん。息抜きも必要だろ?」
鷹緒は車を走らせる。そんな鷹緒の優しさが心地良かった。