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16、下宿先




「今日は車じゃないの?」
 駅へ向かう鷹緒についていきながら、沙織が尋ねる。
「ああ。今日は時間がないから、身動きとりやすい電車。それに、先に俊二が俺の車に乗って行ってる」
 そう言いながら、鷹緒は切符を二枚買うと、沙織にも渡して改札を通っていった。
「で、でも、本当に行っていいの? 理恵さんと、さっき分かれたばっかりなんだよ……?」
 撮影現場には娘だけでなく理恵がいるということを、鷹緒が気付いてないのだと思って、思い切って沙織が言った。鷹緒が親子で揃う場面を、事情を知る沙織に会わせたくはないはずだと思った。
 沙織の言葉に、鷹緒は苦笑する。
「ああ、だからか……わけのわからんやつだな。関係ないじゃん」
 鷹緒はそう言いながら、やってきた電車に乗り込む。
「……鷹緒さんは、関係ないの?」
 動き出した電車の中で、やっと言った沙織の言葉に、鷹緒は眉をしかめた。
「なに言ってんの?」
「え……?」
「俺もあっちも、それぞれプロとしてやってんだ。どんな事情があろうと、仕事は仕事だろ? 関係ないじゃん」
 珍しく鷹緒が強い口調で言ったので、沙織はそれ以上、何も言えなくなってしまった。
「……ごめんなさい」
 そんな沙織に、鷹緒は小さく溜息をついた。
「……まあ、やりにくいのは確かだけどな……」
 そう言って苦笑する鷹緒に、沙織もやっと小さく微笑んだ。

「諸星さん」
 撮影スタジオに着いた二人は、早速声をかけられた。雑誌の編集者である。
「おはようございます。遅くなりました」
 鷹緒が言う。
「いいえ。こちらこそ、ご都合が悪い中、無理にお呼び立てしてすみません。それに、おたくの腕の良いお弟子さんが頑張ってくれてますよ」
 撮影はすでに始まっていて、鷹緒の弟分である俊二がすでに撮影にかかっていた。今日はもとから鷹緒は遅れる予定だったので、前半は俊二ということも了承済みである。
「それはよかったです。キリのいいところで交代させてもらいます」
「ええ、お願いします。こちらのお嬢さんは?」
 編集者が、沙織を見て尋ねた。すかさず鷹緒が口を開く。
「うちの新人の小澤沙織です。今度シンコンに出ることになりまして、撮影現場に慣れさせたくて……邪魔はさせませんので、隅にでも置いてやってください」
「そうでしたか、シンコンの……なるほど可愛いお嬢さんですね。うちのティーン向けファッション誌にも、ぜひ出てもらいたいなあ」
「機会があれば、是非お願いします」
 鷹緒が、肘でつついて沙織を促す。
「小澤沙織です。よろしくお願いします」
 すかさずお辞儀をして、沙織がそう言った。編集者は優しく微笑んで頷く。
「こちらこそ、よろしくお願いします。私はラムラブ編集者の河野です。諸星さんとは、もう結構長いつき合いになりますね。しかし、諸星さんが新人さんに親身になっているとは知りませんでしたよ」
「僕は誰にでも親身になってますよ」
 笑って鷹緒がそう言った。
「あははは。それは失礼しました。小澤さん、ゆっくりしていってくださいね」
 そう言うと、編集者という河野は別のところへ去っていった。
「鷹緒さん」
 その時、俊二が声をかけた。
「おう、一段落着いた?」
 鷹緒が尋ねる。
「はい。十五分休憩です」
「ご苦労さん。これ、カメラ」
「すみません……」
「いいよ。でも、もう自分のカメラ、忘れんなよ。後半は二人で一気にいくからな」
「はい」
「諸星さん!」
 そこへ、そう言って女の子が駆け寄って来た。鷹緒と理恵の娘・恵美である。
「諸星さん!」
「ああ。可愛いじゃん」
 衣装のままの恵美を見て、鷹緒がさらりとそう言った。
「ありがとう。あのね……」
 恵美はそう言って、両手を鷹緒の耳にあてる。
「あのね、この間はママを助けに来てくれてありがとう」
 小声で恵美が言った。そんな恵美に、鷹緒は微笑む。
「いいよ。困った時はお互いさまだからな。もうすぐ始まるから、休んでおけよ」
「うん!」
 嬉しそうに、恵美は去っていった。
「相変わらずですね」
 小さく苦笑して、俊二が鷹緒を見た。
「何が?」
「いえ……」
 押し黙った俊二を尻目に、鷹緒は恵美を見て微笑む。
 親子関係であろうとも、職場ではそれを表に出してはならない。それが昔からの互いのルールで、恵美も職場では、鷹緒を父として見てはいなかった。それは私情を挟んではいけない場所もあるが、鷹緒が結婚していたことも、娘がいることも、ほとんど知られていないからであった。
「諸星さん、お願いします」
「はい」
 スタッフの言葉に、鷹緒が立ち上がる。撮影はそのまま続行された。
「沙織ちゃん」
 しばらくして、壁際で撮影の様子を見つめる沙織に声をかけたのは、理恵であった。
「理恵さん」
「どうしたの? こんなところに……」
 少し驚いた様子で、理恵が尋ねる。
「いえ……鷹緒さんが、撮影現場に慣れておいた方がいいからって……」
「そっか。ごめんね、私が連れて来てあげられなくて……」
「いいえ。理恵さんは、今までどうしてたんですか?」
「他のつき添いのお母さんたちと話してたの」
 二人は、慣れた様子でポーズをとる恵美を見つめる。
「すごいですね。あんなに小さいのに、いろんなポーズ取って……」
 沙織が静かに言った。
「慣れよ。赤ちゃんの頃からモデルやらせてたから。楽しいみたいだしね」
「でも、すごいですね。鷹緒さんにも、ちゃんとカメラマンとして接してて……」
「……昔に決めた、決まりごとだから。それより、どう? 撮影現場は」
「うーん。やっぱり、慣れるには時間がかかりそうです。やっぱりまだちょっと、恥ずかしいかな……」
 素直に沙織がそう言った。理恵は優しく微笑む。
「そう? でも、きっとすぐにわかるわよ。気持ち良いんだから」
「あはは。理恵さんは、前にモデルやってたんですよね。どうしてですか?」
「私はモデルとしては背が小さい方だけど、一般的には高くてね……それがコンプレックスだったんだけど、それを克服するには、バレーボールの選手かモデルかって思ってね。たまたま友達に勧められたのもあって、オーディション受けてこの世界に入ったの。最初は私も恥ずかしかったけど、だんだん人に見られるのが楽しくなったのよ。雑誌に出たら、反響もあったし」
「へえ。そうなんですか」
「まあ、慣れることよ」
 理恵がそう言うと同時に、撮影が終わった。
「ママ」
 そこに、恵美が駆け寄ってくる。
「お疲れさま」
「ママもお疲れさま……このお姉ちゃんは?」
 恵美が沙織を見て尋ねた。
「諸星さんの親戚の、小澤沙織ちゃんよ。今度のシンコンに出るの」
 理恵がそう説明をする。それを聞いて、恵美の顔が輝く。
「諸星さんの親戚なの? シンコンに出るの? すごい!」
「それより、恵美。ご挨拶は?」
 理恵に促され、恵美がハッとしてお辞儀をした。
「石川恵美です。よろしくお願いします」
「小澤沙織です。こちらこそ、よろしくお願いします」
 突然、改まって挨拶をした恵美に、沙織も挨拶をした。そして二人は、顔を見合わせて笑う。
「沙織。帰るぞ」
 そこへ、鷹緒が声をかけた。恵美は鷹緒を見つめると、表情を変えて口を開く。
作品名:FLASH 作家名:あいる.華音