FLASH
「馬鹿言え。おまえの専門はモデル部署だろう? 俺はモデルだけに関わってんじゃないからな」
「でも写真家としてのあなたなら、モデルに関わることが多いでしょ?」
理恵の笑顔に、鷹緒も小さく微笑んだ。
一見、喧嘩腰の二人の会話は、二人が育んだ親しげな過去を物語っている。
「ただいまー」
その時、広樹が戻って来た。
「ほい、コーヒーと軽食」
「サンキュー」
コンビニ袋を広げた広樹から、すかさず鷹緒が缶コーヒーを手にし、一気に飲み干した。
「相変わらずだな、朝っぱらから一気飲みかよ。理恵ちゃん、こんな男と別れて正解だよ」
冗談っぽくそう言う広樹に、理恵も微笑んだ。
「私もそう思います」
「おまえらな……」
「冗談だって。話は出来たのか? 仲良くやってくれよ。同じ会社の仲間になるんだから」
鷹緒の言葉を遮って、広樹が言った。理恵は静かに微笑む。
「大丈夫ですよ。喧嘩別れしたわけじゃないんだし……仲が悪いのは昔から。ねえ? 鷹緒サン」
そう言ってきた理恵に、鷹緒は苦笑する。
「確かに……喧嘩別れじゃないよな……まあ、勝手にやってくれ」
鷹緒と理恵は、軽く握手を交わす。そんな二人に、広樹はにこやかに微笑んでいる。
「それはよかった。二人の握手は、僕が見届けたよ。さて、これから今後の経営体制について話し合うつもりなんだ。鷹緒も居てくれるか?」
「まさか。俺は入稿ついでに寄っただけだよ」
空になった缶を掴み、鷹緒が立ち上がって言った。そんな鷹緒を引き止めるように、広樹が口を開く。
「今日の予定は?」
「打ち合わせが三件入っているほかは、珍しくオフ」
「じゃあ、それまでここにいたら? 食事でも……」
「いい。じゃあな」
鷹緒はそう言って、足早に事務所を出ていった。
「まったく……相変わらずだな。君の前でもあっさりしてる」
ぼそっと言った広樹に、理恵は静かに微笑む。
「うん。でも、それがいいところだと思う……彼、照れ屋だし、思ったことを素直に伝えられないんだもの」
「まあ……そうだね」
広樹も笑って答えた。