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七篠奈々子
七篠奈々子
novelistID. 10468
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楽園

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楽園

 わたしが目をひらくと、そこは真っ赤でした。良いにおいもします。そこはせまいのでしょうか。なんだかとってもきゅうくつで、いきが苦しくなってきたので、わたしはぐっと手でそれをおしてみました。ゆっくりとそれはひらいていき、わたしはいき苦しくなくなりました。
 おいしい空気をたくさんすったわたしは、やわらかなそれの上に立ち上がりました。青い空、オレンジ色の大きな太陽、白い雲、あたたかい風。そして周りにはたくさんのお花がさいています。わたしをつつんでいた、やわからいかべのようなものと思っていたものは、チューリップの花でした。わたしは、今までチューリップのつぼみの中で眠っていたのです。 きょろきょろとまわりを見ていると、遠くの空から女の子たちが飛んできました。女の子たちは、わたしのそばにふわりと来ると、わたしの手をとって、わたしの目ざめをよろこんでくれます。
「新しい私たちの妹が起きたわ」
「ずいぶんとお寝坊さんなのね、あなたが一番最後よ」
「おはよう!」
わたしも元気よく「おはよう」と返事をします。女の子たちの背中には大きな四枚の羽が生えていました。見ていると目がくらくらしてしまうような、きれいな色の羽ばかりです。その中から虹色の羽が生えた女の子が一歩前に出て、わたしに近づいてきました。
「あなたはね、蝶なの」
「チョウ?」女の子が何を言っているかわからないわたしは、首をよこにかたむけます。すると、女の子はわたしを指さしました。
「そう、蝶。ほら、背中を見てみて。あなたにも私たちと同じ羽が生えているわ」
言われたとおりに背中をみると、わたしにも女の子と同じように羽が四枚生えていました。形は女の子のように大きくなくて小さくて、色もきれいな色ではなくて、白い色にぶちがついていたけれど。
「さあ、おいしいお花の蜜が吸える花畑の場所も、雨のときに隠れる場所も、なんでも。全部おしえてあげる!」
わたしと女の子たちはそよ風にのって、その日一日中、つかれるまで飛び回りました。

***

 チューリップのつぼみの中でわたしが生まれて、月日はあっという間に過ぎました。いろいろなことも、わたしのお姉さんたちに教わって勉強しました。ここは『楽園』と呼ばれる場所なのだそうです。誰も本当の名前は知らないけれど、ここで生きている生き物たちはみんな、この場所をそう呼びます。だから、わたしも楽園と呼ぶことにしました。楽園には、美しいものしか生まれません。そう、ここをお創りになった時に主様が決めたのです。楽園で生まれることができたお前は美しい生き物なのだから、ほこりに思っていいのだと、物知りのユニコーンはわたしに言いました。 「それじゃあ、美しくないものはどこで生まれるの?」 森の泉の水辺に座ってユニコーンの話を聞いていたわたしは、ふとふしぎに思ったことを聞きました。すると、ユニコーンは「それは知らないな」といいました。そして、美しくないものはここでは生まれることはないのだから、そんなことを気にする必要はないとつづけました。物知りのユニコーンでも知らないことがあることに、わたしはびっくりしました。そして、ますます美しくないものはどこで生まれるのか気になったけれど、考えるのはやめにして、ユニコーンのお話を一生けんめいに聞きました。ユニコーンのお話はいつだって難しいのです。 「より美しくなることを考えなさい。楽園の主様に一番美しいと認められたものは、永遠 の命を授かることができるのだから」 永遠の命、それはいったいどんな物なのでしょう。主様からいただけるのだか ら、きっとそれはおいしいお花のみつを見つけたときよりも、うれしくなるものなのでしょう。わたしは、まだ知らないそれについて、いろいろ想像したりしました。もしもわたしがそれらを手に入れることができたら、お姉さんにも分けてあげようと決めました。  その日、わたしは森の泉に咲いていたスイレンの花の中でねむりました。

***
 
 私たち蝶には、主様から与えられた役目があります。楽園のいたるところに生えた実のなる木があります。私たち一匹一匹にその木が与えられ、木の実を実らせるというものです。木の実は、私たちの心のありようによって形を変えていくのだそうです。実った実は、楽園の主様が召し上がるとのことで、私たち蝶の姉妹は心をこめて木を育てています。主様はおっしゃらなかったけれど、楽園の中で一番美しい実を実らせたものが永遠の命をいただけるのではないかと、私たちの間ではそんな噂が広まっていました。 私が与えられた木は、リンゴの木でした。私は毎日のように木に通って世話をしていたところ、最近になってようやく小ぶりな青い実がなったのです。ほかの姉妹たちの木にはもう実がなってずいぶん経ち、食べごろになっている時期だというのに、私だけが一番おそいのです。私が目覚めたときもそうでした。いつだって、私は必ず最後なのです。どうしてこんなに要領が悪いのだろう。どうして一生懸命に努力しているのにそれが報われないのだろう。 「リンゴの実の調子はどう?」 私がいつまで経っても実がならないことに落ち込んでいたのを気にして、いつものように木の様子を聞きに来てくれる姉が煩わしく感じられます。姉の実は食べごろになるくらいに育っているので、余裕振りを見せ付けているのかと疑ってしまうのです。 「そろそろ、姉さんの実と一緒に、主様に差し上げられるかもしれないわ」 見栄を張って、私は嘘をつきます。嘘をついても、実の成長が早まるわけでもないのです。 「そう、その日が楽しみだわ」 私の言葉が嘘だとも見抜けない姉は、屈託のない笑顔を向けます。その笑顔にいたたまれなくなった私は視線を姉からそらしました。

***
作品名:楽園 作家名:七篠奈々子