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Pure Love ~君しか見えない~

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「幸……悔しいよ。こんなにも愛されてるあんたが、そんな不幸そうな顔してるの……」
「真由美?」
「またね……」
 真由美はそう言うと、幸を残して去っていった。
 幸には、真由美の言った最後の言葉が理解出来なかった。唯一わかったことといえば、真由美はサバサバした性格ながらも、未だに和人の思いを少なからず引きずっているのだという、漠然とした思いだけである。
 真由美の言葉も、和人の想いも、幸にはまだ届いてはいなかった。

 数時間後。食事や風呂を済ませた幸は、一階の寝室に戻るとベッドに座った。そのまま寝ようと思ったが、ふと真由美の言葉が気になった。幸は静かに立ち上がると、手探りで棚の上を探る。
 少しして、オーディオデッキに手が触れた。使い慣れたデッキだけあり、ボタン配列まで容易に思い出せる。幸は左からボタンを数え、再生ボタンと思われるスイッチを押した。
 CDが回り始めた音が聞こえる。やがて、音楽とともに声が流れた。
「テープ図書。絵本、さっちゃんと虹の美空。作、水上和人……」
 ゆっくりとそう読まれるCDの声に、幸の耳は釘付けとなった。
 以前、母親が気を利かせて、このCDを流そうとしてくれた。その時は聞く気になれず、すぐに止めてしまい、和人が出版したという絵本の題名すら知らなかった。その時のまま放置されたオーディオデッキから、初めて聞く内容が流れる。
 幸は震える手で、再生ボタンの左隣のボタンを押した。するとCDが最初に戻る。幸はもう一度、再生ボタンを押した。
「テープ図書。絵本、さっちゃんと虹の美空──」
 間違いなく、題名が自分の愛称を謳っている。
「和人……」
 やがて、絵本の内容が朗読され始めた。幸はオーディオデッキの前で固まったように、そのテープ図書に聞き入っていた。
 絵本の内容は、“さっちゃん”という女の子が、数々の困難に立ち向かいながら冒険を続け、やがて美しい虹の国に辿り着くという内容だった。そのラストは、振り向いた“さっちゃん”が見る、今まで歩いてきた険しい道を包む、美しい空の絵で締めくくられる。
 どんな逆境にも立ち向かってほしいという、幸への願いが込められると同時に、夢に向かってまっしぐらだった幸そのものであり、和人自身が持つ強さへの憧れ、諦めなければきっと叶う夢が織り込められていた。
 幸はそのまま、涙を流していた。真由美が言っていた和人が抱いている自分への想いを、思い知らされた気がした。
 そして幸も、一気に和人への想いが膨れ上がる。今までの思い出が溢れ出す。
 思えば和人を、何度も傷付けてきた。疎ましく思えた時代もあった。だが何があっても、和人だけは変わらず自分を見つめてくれていた。それが恋心というものに当てはめるのには、少し違うだろう。もっと大きな和人の想いに包まれていたのだと、幸は思い知らされていた。