片道120円の足
そんな生活が半年ぐらい続き、夏から秋に季節が変わろうとしている時の事。僕はいつまで経っても彼女が退院しないということに気がついた。骨折か何かだろうと勝手に思っていたが、どうやら違うらしい。初めてどうしたら退院できるのかを聞いてみた。
「手術?」
「そう。手術」そう言い直した彼女の顔はあまりいい顔をしていない。
もともと彼女は先天的に足が悪く、人の助けがあってなんとか歩ける程度だった。手術をすれば治るかもしれないという話は前からあったらしいが、失敗すれば今より悪化する可能性があるらしく、本人が手術を拒んできたらしい。
でも僕は彼女のおかげで生き方が変わった。だからこそ彼女にも変わって欲しかった。
「治るかも知れないんだよね? なら手術した方が良いよ」
「でも……」
「大丈夫だよ。きっと上手くいくよ」
「……うん。大丈夫だよね。君もついてるし」
しかし彼女はやはり不安らしく「手術前には絶対に来てね」と言っていた。授業がある時間だが抜け出していけばいいだろう。
そして手術当日。僕は学校を抜け出し、病院への道を急ぐ。別に歩いても十分間に合うが、自然と足の運びが速くなる。早く、速く。急ぐあまり、僕は周りへの注意を怠っていた。角を曲がりふと前を見れば大きな影が自分のすぐ目の前にあった。
次に目を開けたとき、そこには真っ白な天井と、両親や兄弟の心配そうな顔が映った。後で聞いたところによると僕は走っているトラックに跳ねられ奇跡的に助かったらしい。だが打ち所が悪かったらしく後遺症が残り歩けなくなるかもしれない、とのことだった。だがそんなものはどうでもいい。彼女はどうなったんだろうか。
結局僕はリハビリを続けたものの、一人では歩ける体ではなくなってしまった。理由の一つに金が無くいい医者に見せられなかったというのがあるが、今となってはもう気にも留めていない。一応車椅子でなら外に出られるようにはなったが、彼女の病院まで行く勇気はなかった。どんな理由があろうと、手術には行けなかったのだから。
それから数年が経ち僕は入退院を繰り返し何とか回復の方向に向かっていた。今度の入院で入った病室は奇しくも彼女と同じ二階の個室だった。このベッドから外を見ると人が通って行くのが良く分かる。