片道120円の足
小さい頃の僕の家は貧乏で、一駅分の電車賃を払うのも惜しかった。だから隣町に用があるときはたいてい歩いて行っていた。周りの友達はみんな自転車を持っていたが、僕にとって手の届く代物ではなく、友達と遊ぶときはよく走ってついていったものだ。しかし自転車に乗っていなくて得することもあった。駅前の病院の敷地を突っ切るというのも、歩きならではの近道だった。
そして一時間ほどかけて隣町に遊びにいった帰りのこと。その日は二階の窓に人影があるのに気付き、なんとなくそちらを見上げてみたのだ。
その窓には一人の少女が窓枠にもたれ、遠くの方をうらやましげに見ていた。その子は何か引き付けるものを感じ、しばらく見つめてしまった。ふと我に返り僕は慌ててその場から立ち去った。
家に帰ってからもその少女のことが気になり、気付けば次の日は何か用があるわけでもなくあの病院に足が向いていた。病院に着けば昨日と変わらずあの少女がいる。自分でもここに来た理由がわからずに独りで突っ立っていると、少女がこちらに向かって手招きをしているのが見えた。
遠目に見かけただけの人間を招くわけがないとは思いつつも、自分に人差し指を向けてみる。すると少女はこっくりと頷き、再び手招きをし始める。迷った挙句、病院の入り口に足を踏み入れてしまった。
受付からの視線をかわしながら二階へと向かう。病院内はあまり患者がいず閑散としていた。本当はこれが病院としては正しい姿なのだろう。窓の位置からおおよその見当をつけてはいたが、どこの病室も扉が閉まっていて中の様子が分からない。途方に暮れていると、近くの扉が開き看護師が出てき、中に少女の姿が見えた。看護師が過ぎ去るのを待ってから扉をノックしてみる。
「どうぞ」心なしか嬉しそうな声が返る。
扉を恐る恐る開けると、ベッドの上で上体を起こした少女が目に入った。
「こんにちは」少女がきれいな声で話しかけてきた。
「こんにちは」僕が緊張した声で返す。
病室内は少女以外には誰も居なく、白い部屋の中で窓際に赤い花束が飾られていた。それが余計に殺風景な印象を与えた。ベッドの脇に車椅子が置かれているのを見ると、足が悪いのかもしれない。少女はにこにこと笑っているだけで話しかけようとしないので、仕方なく僕のほうから話しかける。
「ええと、何で僕のことを呼んだの?」
そして一時間ほどかけて隣町に遊びにいった帰りのこと。その日は二階の窓に人影があるのに気付き、なんとなくそちらを見上げてみたのだ。
その窓には一人の少女が窓枠にもたれ、遠くの方をうらやましげに見ていた。その子は何か引き付けるものを感じ、しばらく見つめてしまった。ふと我に返り僕は慌ててその場から立ち去った。
家に帰ってからもその少女のことが気になり、気付けば次の日は何か用があるわけでもなくあの病院に足が向いていた。病院に着けば昨日と変わらずあの少女がいる。自分でもここに来た理由がわからずに独りで突っ立っていると、少女がこちらに向かって手招きをしているのが見えた。
遠目に見かけただけの人間を招くわけがないとは思いつつも、自分に人差し指を向けてみる。すると少女はこっくりと頷き、再び手招きをし始める。迷った挙句、病院の入り口に足を踏み入れてしまった。
受付からの視線をかわしながら二階へと向かう。病院内はあまり患者がいず閑散としていた。本当はこれが病院としては正しい姿なのだろう。窓の位置からおおよその見当をつけてはいたが、どこの病室も扉が閉まっていて中の様子が分からない。途方に暮れていると、近くの扉が開き看護師が出てき、中に少女の姿が見えた。看護師が過ぎ去るのを待ってから扉をノックしてみる。
「どうぞ」心なしか嬉しそうな声が返る。
扉を恐る恐る開けると、ベッドの上で上体を起こした少女が目に入った。
「こんにちは」少女がきれいな声で話しかけてきた。
「こんにちは」僕が緊張した声で返す。
病室内は少女以外には誰も居なく、白い部屋の中で窓際に赤い花束が飾られていた。それが余計に殺風景な印象を与えた。ベッドの脇に車椅子が置かれているのを見ると、足が悪いのかもしれない。少女はにこにこと笑っているだけで話しかけようとしないので、仕方なく僕のほうから話しかける。
「ええと、何で僕のことを呼んだの?」