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VARIANTAS ACT4 友

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Captur 1

「それではこれで、定期報告会を閉会する」
 月に一度の退屈な情報交換会を終え、会議室から出てきたガルスの前に、一人の男が塞がった。
「ケスティウス=ガルス中将ですね?」
 男の顔を見据えるガルス。
 色白で面長の細身な男だ。
「なんだ?」
「始めまして。ジェネシック・インダストリーのロイ=マッケンジーです。実は是非とも中将殿にお願いしたい事があるのですが…」
 そう言ってガルスに分厚い資料を渡すロイ。
 その資料を見たガルスは思わず目を見張った。
「これは……!?」
 男はニヤリと微笑んだ。



************



「と、言うわけでお前を呼んだのだが……なんだ? その顔は……」
 司令官室に呼び出され、明らかに嫌な顔をするグラム。
「……また、小間使いですか?」
 ガルスが一つため息をついた。
「私がいつお前を小間使いに使った……? それにお前が行けとは言っていない」
「では?」
「誰か一人、良いHMAパイロットは知っているか?」
「それなら一人、若いパイロットを知っています」
「そうか」
「名前は……」



**********



 宇宙――
 先人は『人は重力に抱かれて生きている』と言ったが、今ならそれを確かに実感できる。
 月軌道上に一機の機動装甲。HMA-h2C/B・ストライクウルフ。
 パイロットはレイズ=ザナルティー軍曹。
「そうか、狼はあれに向かって吠えていたのか……」
 “静かの海”を半分囲む様に作られた月面基地群は海の“沖”に向かって延び、ちょうど犬が吠える口の様に見える。
「狼……ですか?」
 サラがレイズの言葉に反応した。
 答える彼。
「そう、狼。子供の頃、よく動物図鑑をみてね。狼は満月になると月に向かって吠えるんだって。もう大昔に絶滅したけど……」
「確かに絶滅していますが、この基地が建設されるより前にですね……」
「そうだったね……」
 とぼけるレイズ。
 “彼女達”は高度なAIを搭載している。
 その上可愛い。
 暇つぶしに話をするには格好の相手だ。
 暫く会話が続く。
 ここに来る前の、地球での記憶がリフレインする。


 僕は突然司令官室に呼び出され、これまた突然、指令を受けた。

『明日、08特機と共に月へ行け』

 これが指令だった。
 大佐の下で働くようになって一ヶ月。訓練と自己鍛錬の日々の中で、やっと任務が飛び込んできた。
 この任務に僕を推薦したのはミラーズ大佐だった。
 僕の任務は、施設に設置されているであろう防御機構を強制的に排除すること。
 特機部隊の任務は大昔に突然廃棄された月の裏側に在る研究施設の探索、及び重要物資の回収。
 回収後は施設を爆破放棄するらしい。
 こんな大昔の施設がなぜ廃棄されたか、何があるかは知らないが、特機部隊の連中は張り切っていた。

「そういえば特機部隊の連中はいい奴ばかりだったな」
「レイズ軍曹。『いい奴』とはどのような人を指すのですか?」
 小難しい質問をサラがしてきた。
「そうだなぁ……もう一度会いたいと思える人間、かな」
 もう一度リフレイン。

 出発前に隊に挨拶したな。
 隊の連中は皆、気さくで明るい奴ばかりだった。
 特にリックは人懐っこくて昨日一緒に飲んだっけ。
 ヴァン隊長(苗字なんだっけ?)はいかにも『部下に信頼されている上司』と言う感じだ。
「みんな張り切ってるだろ?」
 ヴァン隊長が僕に話しかけてきた。
「俺たちみたいな装甲歩兵部隊は実際、任務なんてのは後方支援。MAPSじゃヴァリアントなんて化け物に太刀打ちできない。闘志鬱積状態さ。それで今回の任務だろ?戦える事が嬉しいんじゃない。自分たちが必要とされている事が嬉いんだ」
 この言葉は僕の中でいまだに響いている。


 突然のコール音がレイズの意識を引き戻した。
 レイズ機に近づく一機のドロップシップ。
 無線回線に入電。
「よぅ、レイズ。頼むぜ」
 特機部隊を乗せたドロップシップ(揚陸艇)だ。
「軍曹、状況を開始せよ」
「了解」
 スラスターを噴射。
 静止軌道から進入軌道へ。
「サラ、アーマメント、爆装ユニット起動! FCSエンゲージ!」
「了解」
 ストライクウルフの背面にマウントされた爆装ユニットが息を吹き返す。
 増設されたスラスターで加速。
 レイズ機の後ろからドロップシップが追従する。
 月の表側を抜けて裏側へ。
「目標確認」
 薄べったい、貼り付けたような五角形の建造物。
「熱源確認。対空砲、15。砲撃、来ます」
 施設の周りでチカチカとした光。
 レイズはHMAをドロップシップの前に位置させ、対空砲の射線を大型シールドで遮る。
「あぶね、あぶね」
「おいおい…頼むぜ?」
「分かってますって」
 砲台をロックオン。
 ミサイルで入念にロック、ロック、ロック。
 レイズはトリガーを引いた。
 爆装ユニットから発射された10発の対地ミサイルが、砲台を破壊する。
「距離が近いな…サブを使おう」
「了解。切り替えます」
 爆装ユニット側面のガンベイに設置された複合アーマメントユニットに切り替え。
 200mmロケット砲と100mm機関砲。
 ロケット弾が次々に発射され、機関砲が火を噴き、砲台を鉄塊に変えていく。
「対空砲沈黙。着地できます」
「よし! 揚陸艇、突入できます! 行ってください!」
 後方から出るドロップシップ。
「行ってくるぜ~」
 リックのお気楽な声を聞きながら、レイズは機体を反転させ、施設の真上に静止させた。



Captur 2

「ゲートだ。着地体制に入る」
 特機部隊のドロップシップは施設に近づき、ゲートの前に止まった。
「E・J、ゲートを開けろ」
「アイサー!」
 E・Jは電子機器のスペシャリストだ。
 彼は自前の端末にコードを入力しながら呟いた。
「うわ……古りぃ…… ゲートコード入力と……、あれ? サブコンしか稼動してないな」
 入力完了。
 気密ゲートが開き、シップがゲート内のポートに着陸する。
「総員、装弾!」
 コックを引き装弾。
「08、カーゴを開けるぞ」
「了解、開けてくれ」
 カーゴのゲートが開く。
「総員、降艇!」
 強化外骨格に身を包んだ兵士たちが揚陸艇から降りてくる。
 隊長のヴァン大尉。
 前衛のダン、ミン、リック、タゴール。
 電子戦のE・J。
 後衛のダニー、エミの計八名。
 12.7mmアサルトライフルを構え、一応、周囲を警戒。
 敵性反応は無し。
「よし。リック、ミン、ダン、ポイントマン。E・J、端末の位置は?」
 彼らが回収を命じられた『重要物』とはここのメインコンピューターに保存されているデータだ。
 大昔のそのデータが『彼等』は欲しいらしい。
「メインコンピューター以外の端末からデータの引き出しは出来ないし、今はサブコンしか稼動してないから、最下層のセントラルターミナルまで行く必要があるよ」
「分かった。セントラルまでは?」
 E・Jがマップを検索する。
「この通路の先、5ブロック先に直通エレベーターがあるから、そこから」
「よし、いくぞ」