小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

幻想

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

好きな絵を描いていられれば、他に何も要らないという彼女が食事を取るのを忘れないように、私は料理上手の彼女の店でお総菜を買って、お勧めのお土産として持って行く。ランチの代わりに、頼んでおいた絵を譲ってもらうのだ。


小さな頃の私は、自分に何が向いているか分からなかった。自分に無限の可能性があるように思え、一方で自分には何の力も永遠にないままではないだろうかとも思え、ただ経験してみること、見て、聞いて、やってみることを試してみる以外無かった。

しかし、その時代のおかげで、自分の向き不向きが見えてくる。好き嫌いも分かってくる。その頃に知り合った他人の向き不向きも好みも参考になる。

私は私よりもそれが好きでデキる人の前に謙虚になることを知った。それらの人の前に「かないません」と頭を垂れ、おとなしく彼らの作るものを使い、彼らの語る詩、彼らの歌う歌を聴き、彼らの催しに便乗して楽しむ。

思い出の中で彼らに出会えば出会うほど、「もうひとりの私」は姿を消していく。
どんどん「何もできない私」になることへの怯えや嫌悪と闘いながら、社会を信じ、仲間を信じる決断を繰り返す。

あれだけ増えた「私」は、もう両の手で数えるほどしかいない。
これからも減っていくだろう。
そうやって、私が「最後の一人」になったとき、私にはもう、世間に貢献できる何一つも無い代わりに、ただここに生きているだけでそれを許されているという事実への、恐怖にも似た巨大な感謝に包まれて介護をうけているかもしれない。

その悟りがなければ、「自分には何もできないのに社会には迷惑をかけている」という気持ちにきっと押しつぶされてしまうに違いない。

いいだろうか、人助けが好きで、弱い者をいたわりたくて仕方のない人たちのために、弱い者は存在せねばならない羽目になっている。
争いを鎮め平和を高らかに唱えたい人たちのために、鎮められるべきすさぶる者達が存在しなくてはならない羽目になっている。

望む者が居る限り
シナリオをえがく者が居る限り
想定する者が居る限り

それらのイメージは瞬時に叶えられていく。そして時間をかけてこの世に結実していく。

いかなるものであれ、求めたものは、実現する。
自という映画監督が求めたありとあらゆるアングルからのカットを、己がモニタとなって見て聞いて語ってゆくのだ。

最後の私すらも消して良いと思ったとき、人は真の天に召されていくのだろう。




作品名:幻想 作家名:有賀透子