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彼と私の宇宙旅行

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家の全ての窓を開け放つ。
 風の香りが心地よい。瑞々しい夏の香り。
 彼との約束まで、あと一時間。お気に入りのワンピースに新しい靴。髪も爽やかにまとめて化粧はナチュラルメイク。おでかけの準備は万全だ。この一週間で溜まっていた洗濯物も洗い物も済ませてある。昨日買ってきたばかりの新作本でも読みながら、彼を待てばちょうどいい頃合だ。
 机の上の本に機械の右腕を伸ばすと、モニターに受信ランプが点っているのに気付く。誰からのメールだろうか?
 受信したメッセージの送り主を見ると、彼からではない。それどころか、宇宙機構を経由してのメールだ。つまり、遠い宇宙からの特別通信。
 何人か、同窓生の顔が思い浮かぶが、事故以来宇宙からメールを送ってくるような人はいない。そっと、キーを叩いてメールを開く。
 送り主は〝彼女〟だった。
 途端に胸が疼く。訓練校の同窓生。私が一度も敵わなかった、訓練校最高の実力者の名前がそこにある。あらゆるオファーや超有名企業の熱烈な誘いを蹴って卒業すら待たずに、最も過酷な超光速宇宙探査船に乗り込んだ女。無口でぶっきら棒で、何を考えているのかさっぱりわからない、それなのに顔とスタイルが良いものだから誰からも一目置かれていた存在。
 思えば、事故で右腕と夢と将来を失った私にメールを出してきそうな同窓生は、事故を知らない〝彼女〟以外にはもういない。他の友達は皆、私に気を使って宇宙からメールを送ってきたりはしないのだ。
 〝彼女〟と交わした会話は今でも思い出せる。
「あなたではわたしには勝てない。だって、わたしの方が空っぽだもの」
 〝彼女〟は私にそう言った。勝ち誇るでもなく。まるで興味が無いという表情で。
「私はあんたを一度でも負かしてから、卒業したかった」
「そうなの? でも、わたしは遠くまで行くから。またね」
 〝彼女〟は最後の試験を受けずに旅立った。募集枠二つの超特殊任務に、たいして親交が深いとも言えない同窓生の男と二人で着くのだという。任務期間は往復で二十年。超光速宇宙航行が可能となった現在においては異例の、長い任務だ。若い移民団を乗せて、宇宙の最果てを目指す旅。〝彼女〟が選ぶ進路としては、物好きに過ぎる選択だった。
 我知らず生身の左手で機械仕掛けの右腕を押さえていた。右腕に鈍い痛みが走っている。機械の腕に痛覚など無いというのに。
 モニターにはまるで飾り気の無い文面が浮かんでいた。
『お久しぶりです。同乗した彼と写真を撮ったので送ります。お元気で。』
 差出の日付は、五年前。つまり、〝彼女〟は五年前の時点ですでに地球から五光年以上離れた宇宙を旅している……たぶん。今ではさらに遠いだろう。目指す〝最果て〟はさらに遠い。肝心の写真は、宇宙機構によって未だ処理待ちの表示が出ていた。おそらくデータの破損などを修復しているのだろう。〝彼女〟がメールを送ってくるだけでも驚愕だが、写真まで添付されているとさらに気になってくる。
 外出から帰ってくる頃には届くだろうか?
作品名:彼と私の宇宙旅行 作家名:空創中毒