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∑-シグマ-

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ランプの灯りがまだ残っている研究室の一室、そこにいる一人の男が動物達の入ったカプセルを見上げ、歪んだ笑みを浮かべながら、機会に触り呟く。
「ふっふっふっ……、もう少しで、私の夢見た世界が出来上がる……、……あぁ、想像しただけで私の体に快感が走る……!!所詮人間どもはこの世の出来損い……、だから私の手でお前達を完全にし、この世を掃除してくれる!!」
男が部屋の中を少し歩くと、培養液に満たされたカプセルの前で足を止める。男の視界に映るはカプセルの中で目を閉じている身長高めの赤い髪をした男。それを見た後、さっきよりも低く、唸るように言う。
「さぁ∑(シグマ)よ…、私の世界をその手で切り開くのだ!!」

翌日、シグマはカプセルから出され、ヘリポートへと運ばれた。
「まったく…、あの変態所長は何考えてんだよ…、なんか独り言ぶつぶつ言ってたし、気味が悪い。」
 愚痴をこぼしながら研究員がシグマをヘリポートまで運ぶ。∑の目はまだ閉じたまま。どうやら研究員達には一部しかその事実を知る者はいないみたいだ。少なくとも、この研究員達はどういうものか知らないようだ。
 そう言いながらも彼らはシグマを屋上へと持ってきた。屋上には運搬用ヘリコプターがいつでも飛びたてる状態で駐在。その中に所長の姿が。
 「所長、ただいまお持ちいたしました。」
そう言いながら研究員がヘリコプターにシグマを載せようとした時、突然大声が響く。

「むさい手で触るな!!」
 いきなりの大声で驚く研究員。するとシグマは握られていた手を力づくで振りほどき、屋内へ逃げこむ。
 逃げるシグマに対し一斉に拳銃を構える研究員たち。すかさず所長と呼ばれた男が叫ぶ。
「まだ殺すな!追え!」
その叫び声と共に一斉に走り出す研究員。所長がそれを見送った後、ヘリの窓をグーで殴り、無口でゆっくり立ち上がると、リボルバー式拳銃に弾を装填した。

一方∑は、研究所を駆け回っていた。
なぜ自分は見ず知らずの人間たちにヘリへ載せられようとしていたのか、ここに来るまでに一体何があったのか、自分はいったい何者だろうか、そして今後どうなるのかと…、そんなことを考えながら上りの階段の手前で躓く。
「いてぇ!」
そして自分の腕を見たとき、彼は驚く。
自分の足は人間のそれではなく、機械である事に。
「!!!」
信じられなかった、否、信じたくなかった…。
そう思わんかの如く何度も目を擦って見直してみるもさっきと何ら変わらない両足。

自分は人間ではない―。

シグマは自分の存在を悟ったその時、響く銃声。
それを耳にしたシグマが辺りを見回すとそこには拳銃を構えた研究員達。シグマは焦り始める。
(お縄につくとどうなるか分かったものじゃない……!!だが武器が無い……!クソッ……、どうする……!!)
焦るシグマを余所に研究員の一人がだるそうに口を開く。
「ったく……、あの変態所長は俺達に命令するだけで自分は動かないとは、全く、‘大した’豚野郎だな。どういうものか分からずほとんどタダ働きさせられてる俺達の身になってみろよ。」
研究員が言葉を発した直後に鳴り響く銃声。それも拳銃のそれより大きく、低い銃声。
その音に驚き、音が鳴ったほうを見てみると、そこには銃床が切り詰められたショットガンを構えた女性が苦笑いする。
「お忙しい中失礼。」
女性の服装はほかの研究員と同様で、頭のほうにある薬品から目を守る為だと思われるゴーグルと、髪色は青で肩ぐらいの長さの髪が特徴的。
その女性は右足を思い切り踏み込むと、一気に研究員達との間合いを詰め、左足で近くの研究員の腹部にストレートキックを捻じ込む。
よろめいた隙に左手でショットガンを支え、上から喉元に一発。その弾は拡散しきる前に研究員の喉に着弾し、研究員の体と頭を強引に引き離した。

頭の無くなった体は崩れるかのように地に伏し、首からは黒ずんだ紅色の体液が絶え間なく流れ、床を朱に染め始める。

「うっ、裏切り者ぉ!!」
死体から血が流れ出した直後に響き渡る声。
それを合図と言わんばかりに銃口はシグマから青髪の女性に向けられる。それを見た女性が鼻で冷笑すると、ショットガンを背中に戻し、左手に持っていた流線状の物体についていたピンを口で引き抜き、地面に転がす。
「はっ!!」
研究員が転がるそれから少し距離を置く。直後、眩い光が研究員達とシグマの視界を奪う。
「!?………!!!」
シグマが気づいた時、右手は彼女に握られていて、いつの間にかさっきいた研究員の姿は遠くにあった。

「ちょっ、一体どうなってやがる!?アンタあいつ等の味方じゃねぇのかよ!!」
「うるさいわね、静かにしてなさい!!じゃなきゃ気付かれるじゃない!!」
「阿呆か!さっきの銃声で気付かれてんだろ!!」
「いちいち五月蝿いわね!置いて行くわよ!!」
二人は大声を上げながら近くにあった一室に入り込み、内側から鍵を掛ける。そしてシグマの手を放すと彼女は近くの壁に寄り掛かる。

「ふぅ、何とかなったわね、あぁ疲れた……。」
女性はそう言うと、得物であるショットガンの残り弾数を確認していた。
「で、どうなってんだ?ここの事や、どうして俺がこの姿なのか、そしてあんたは何故俺を助けた……。今の行動から、アンタは俺の事を何か知ってるようだが。」
∑は囲まれる前から思っていた事やその直後の出来事を女性に訊ねる。女性はショットガンに弾を装填しながらその問いに答える。
「今から話すこと、紛れもない‘事実’だけど、冷静に聞いてほしいの。……覚悟はいい?」
 しばらくの沈黙の後、シグマは口を開く。
 「一応聞くが…、なるだけ短めにしてくれ、長ったらしい話はだりぃ。」
 その言葉に女性は途端に呆れ、溜め息をついた後頭を押さえる。
 「はぁ、何でこうなったのかねぇ……、どっかミスでもあったのかしら……。」
 その言葉にシグマが反応する。
 「ん、どうしたんだ、オバさ―。」
 その言葉の途中、シグマはものすごい殺意を感じ女性の方を向くと、右手にはさっきと同じ形の手榴弾が。女性は狂気じみた笑顔で、明るめに喋る。
「これ、焼夷弾って言ってねぇ、投げた後すんっごく燃えるんだよぉ♪お姉さんまだ二十三歳なのに、口に気をつけないと、お姉さんがそういう悪い子を、焼いちゃうぞ♪」
その言葉で自分が今言った言葉が確実にまずかったと感じ取り、訂正を挿む。
「分かったからとりあえず落ち着け、な、なっ!?」
すると彼女は急に真顔になり、口を開く。

「そう言えばさっきの続きだったわね、単刀直入に言うけど貴方はあの所長によって改造されたの。“兵器”としてね。」
「!!」
驚くシグマを余所に語り出す女性。その口調はさっきとはうって変わって、低い口調。
「……信じがたいかも知れないけど、貴方の腕と右眼がその証拠よ。他の人間には人工頭脳が埋め込まれているけど貴方には仕込まれてないのよ。」
「確かに信じがたいが、信じるしかなさそうだな。」
シグマが率直な感想を漏らしている間にも、クレゾールは口を休めようとはしなかった。
作品名:∑-シグマ- 作家名:黒月