とある短き年代記
☆ ☆ ☆ … ☆
「ねぇ、私と付き合ってくれない?」
「……いいよ」
サイハテと名付けられた惑星で人類の歴史が綴られ始めてからおよそ一万年。今日もこの惑星は、暢気過ぎるほどに平和だ。
二十歳になってから始めてのサイハテ・ダンスパーティで、私は彼と踊った。一貫校を卒業した後もときどき二人で会っていたけれど、ダンスに誘われるとは思っていなかった。このパーティに誘うってことはつまり私のことが好きってことで、それに応じた私も彼のことが、ということだ。
首都で開かれる年に一度のダンスパーティでは、例年多くのカップルが生まれ、この惑星をますます賑わいのあるものにしている。つまり、惑星を挙げての出会いの場なのだ。さらに言うと、なかなか踏ん切りがつかないヘタれ男どもの背中をせっつくイベントでもある。この惑星の創始者連中はよっぽど物好きだったらしい。
「なぁ、ところで俺はどこまで付き合えばいいんだ?」
所謂、恋人たちが向かう歓楽街に背を向けて黙々と住宅街へと進む私を、何とも不安げで情けない声が追ってくる。
本当にこの人でいいのかしら私。まぁいいか。ご先祖様も随分なヘタれだったみたいだし。
「実家まで付き合って。ちなみに、一族眷属み~んなあなたを待ってるから」
「へっ?」
「我が家の数少ない掟なのよコレ。ざっと、一万年前からずっと。家族が増えたら『顔を見せる』ってのが」
「……それって、つまり」
「あと、我が家の血筋って救いようも無いほど言葉足らずだから、覚悟してね!」