ふしぎなバトン
その若い自分を見ていると、今の自分がよけいみじめに思えてきた。
ぼくはそれを打ち消すように、バトンを数回振った。すると、またバトンが一瞬輝いた。
覗いてみると、今度はもっと子どものぼくがいた。無邪気な顔をして。
そして、そのそばに誰かがいるのが見えた。
「あ、おばあちゃん」
ぼくは懐かしさで胸がいっぱいになった。
子どものぼくが絵を描いているそばで、おばあちゃんが目を細めて見ている。
『ほんとうにお前は絵が上手だね』
おばあちゃんの声がした。
そうだ。ぼくはおばあちゃんにほめられて絵の道に進もうと決めたんだった。
ぼくが都会に出てくる少し前、おばあちゃんは亡くなった。
ぼくは思い出した。
おばあちゃんが亡くなる前、枕元でぼくに何かを手渡そうとしたものがあった。
いや、おばあちゃんは見えない何かをぼくに渡したんだ。
もしかしたら。それがこの……。
ぼくはバトンを握りしめた。
このバトンには、おばあちゃんの命がこめられている。
ぼくは、おばあちゃんから命を引き継いだんだ。
この不思議なバトンに勇気づけられて、ぼくは精一杯生きていこうと思った。