時をかけた跡に残るモノ
「次第に静止画から数秒の動画のように見えてきたんだ。そして今度はドラマの予告編みたいに、それなりの長さで見ることができるようになった。でもその先は故意に見ることはできなかったし、まだまだ未熟だと思ったよ。だからもっと見たいと思うようになって、見れる時間がどんどん長くなっていって、ついにはノーカットで見れるようにまでなったよ。その時に、現在過去未来について、原理がわかってしまったんだよ。全て時間の流れは既に決まっている。何時何分にこういうことがあった、今度はこういうことがある、更にはこうなる。全てあらかじめ決まってある。それに沿ってみんな時間を生きている。寸分の狂いもなく。正確に。気持ち悪いほど正確にね。そして未来を知ったとしても未来を変えることはできない。未来を知る行動さえも予め決まっている事柄だからね。だから君がここに来ることも決まっていたし、その時にぼくがここにいることも決まっていた。君が生まれる時間も決まっていたし、死ぬ時間も決まっている。君が君の人生で行うことも決まっているし、今までやってきたことも決まっていた。全ては時間から動かされている。何も変えられないことを知ったんだ。つまりは黒髪の子が死んでしまうことを君が知っても黒髪の子は死んじゃう。これは避けられない事実なんだ。君が過去を振り返るときに、ああしておけばよかった、こうしておけばよかった。と考えるかもしれないけど。実際にやってしまった過去はもう変えられないというのは知ってるね?未来も同じなんだ。未来を知ったところで、ああすればいい、こうすればいい。と考えるけど。何も変えられない。ぼくが知っている未来を寸分たりとも変えることはできないんだ。それを知ったときに、ぼくは全てに失望してね。何もしたくなくなった。それからずっとここにいるよ。」
時間の流れ、現在過去未来について語ってくれたと思うのだが、正直ついていけない。みんな時間の流れに沿って行動している?運命論みたいなものだろうか。
「ごめんね。難しい話をしてしまったね。君に分かりやすいように言えば、君の未来を見るときは、君のROMを見ているようなものなんだ。ROMがわからないようだったら、爪を外したビデオテープだと思ってもいいよ。」
「あ、ROMはわかります。CD-ROMとかみたいに読み込みしかできないやつですよね。」
「そう。そしてそのROMを見ている。現時点が何メガ何バイト目で、そこから何バイト先を見てそこに書いてある変数を引き出すんだ。引き出した変数はその時にあった出来事になるね。」
ちょっとなるほどと思ってしまった。ROMであれば先に書いてある物の変更ができない。見ることさえできれば話すことはできるが、できるのは「話すこと」だけだ。
「ちょっと面白いものを見せてあげよう。」
と言って両手に石鹸を両手に一つずつ持ち、僕の前に差し出す。
「今から君にどっちの石鹸が良いか決めて貰おう。ただし、君が選ぶ石鹸をぼくが宣言した後に選んでみてくれ。」
右か左か選ぶのなら。僕は右の石鹸を選ぶことにしよう。
「さて、君が選ぶのは、君から見て右の石鹸だ。さあ、右か左か指をさして選んでみてくれ。」
ここで僕が選ぶ予定の石鹸が言われてしまった。こうなったら反対側の石鹸を選んでみよう。そうするとタイムパラドックスが起こったりするのだろうか。
「こっちで。」
「これでいいのかい?じゃあ君が選んだ石鹸は君から見てどっちの石鹸か確認してごらん。」
どっちも何も反対を選んだのだから左側に決まっている。
「え。」
僕は左を選んだはずなのだが、指は右を指している。これじゃ頭の中がタイムパラドックス状態だ。
「え、ちょっと待って下さい。」
「これは君が選んだ未来だよ。もっとも、その未来なんてものはすでに決まってあるものだけどね。」
「これ、手品とかじゃないですよね…」
なんとも信じられない。僕は左を指したはずだ。でもなんで右を差している?
「君は左にしようと思ったんだね。でも君の未来は右を差していた。未来で決まっている出来事を故意に修正しようとすると良くある事なんだ。左と思っていても無意識に右を差してしまう。似たような現象が文字を書くときにもあってね、こっちの方が良くあるのかな?間違った字を書いてしまって、慌てて消しゴムで消してからまた書こうとすると、同じ間違った字を書いてしまう。また消して今度は正しい字を書く。ひどい時になると、2〜3回間違った字を書いてしまうことだってあるよね。これは、間違った字を書いてしまうことが時間の流れとして決まっていたんだ。もちろん、間違いに気づいて正しい字を書くわけだけど、正しい字を書く未来よりも先に正しい字を書こうとすると、無意識に同じ間違いの字を書いてしまう。最終的に未来で正しい字を書き直す時間になって、ようやく正しい字で修正することができるんだ。そうやって、時間の流れに反したことをやろうとすると、無意識が時間の流れに合せようとする。無意識が狂いそうになったその人の行動を修正しているのさ。だから今君は右の石鹸を指差した。頭で左って思っていたのにもかかわらず、無意識が右に修正した。ということなのさ。」
字の間違いを間違いで修正するのは僕もやってしまう出来事だ。これは無意識が僕のROM通りに行かなくなってしまうのを修正するために行っていることなんて。左を指したはずの指が右に向いていたのも、この無意識が勝手に修正した結果なのだろうか。
「はっはっは。もう最後にしようか。こんな所に長々と捕まえておくのも酷だろう。今日のところはこれで最後だ。ぼくのこと、信じるか信じないかは君次第だよ。」
知ることができたのは僕のこれからのことと、仲間のこと。
それに、未来は変えられないということ、変えようとすると無意識で未来通りになることだ。
ただ、未来を変えられないことを知っても未来を全て知っているわけではない。知らない未来を見るために、日々を過ごして行くしかないのだろう。
作品名:時をかけた跡に残るモノ 作家名:谷口@からあげ