短いおはなし
さん
雨がぱらぱらと降りそそぐ。
僕は鮮やかな花を思う。
僕は淡い綺麗な色の花が好きだけど、雨には真っ赤で情熱的な花がよく映えることをしっている。
だから咲樹が露に濡れた椿の花を個瓶にさしたとき、ついうっとりとみいってしまった。
「椿の蜜は最後の恋の味がするわね。」
また咲樹はおかしなことを言う。
僕はそんな話が好きだ。
「最後って?」
「ずっと…いえ、あと少しさき。おじいさんとおばあさんの恋。…違うかな。相手は若者かもしれない。犬かもしれない。…空かもしれない。ただひとつだけわかってるの。」
「…最後ってことを?」
咲樹はミルクティーに椿の花びらを浮かべた。白くて紅くて…僕は頭がくらくらした。
「…うん…。もっと早く知りたかったって。もっと、もっと早く愛したかったって。そうすればもっとたくさん知れたのに。」
「…なんだか寂しいね」
咲樹はふっと微笑む。
「だからこそ甘いのよ。」
そして二人で雨に耳をかたむけた。