短いおはなし
いち
花が咲いた。
ぷつりと摘むと、茎からなにやら汁が出てきた。
彼女はそれを見ると決まって眉をしかめる。
そして白いタオルを手に駆けてくるんだ。
僕は困った顔で両手を挙げて、されるがままになっている。
そして彼女の小言が始まる。
「だから無造作に花を摘まないでよ。」
「だって君にあげようと思ったんだ。」
そう言うと彼女は「わかってないんだから。」と苦笑する。
「私が育てた花を勝手に摘んでプレゼント?」
「これは雑草だろ?」
シャツについた薄紫の露はなかなか手強いらしく、彼女は少し強くこすりだす。
「失礼しちゃうわね。世の中には雑草のようで雑草でない植物がたくさんあるのよ。…あなたが前親切心で摘んでくれた「雑草」もフウセンカズラの芽だったって知ってた?」
僕は「降参」と呟いてふぅと溜め息をつく。
彼女がそんなに怒ってないことを知っているから。
彼女はそっと微笑みを僕にくれる。まるで小さなプレゼントみたいに。
「そんな「雑草」をプレゼントしてくれるあなたが好きよ」
おひさまが静かに僕らにそそぐ。
彼女はきらきらと輝いている。
そして僕は幸せだなぁとしみじみ思うのだ。
(きっと今世界で一番幸せなんだろうなぁ…)と。
何億といる男たちのなかでこの冴えない男を好きだと言ってくれる人がいる。
それってそうそうあるものじゃない。
おまけにその人は僕の好きな女の子なのだ。