神様なんていないんだ
その夜ふたりは泣きじゃくりながら、一生懸命に基地のそばに穴を掘った。
そこへ子犬を埋めてやった。
その上には石を積んだ。
最後に、ボクが手にしていた大きな石を乗せた。
ふたりはそこにしゃがみ込んで、泣きながら手と手を合わせ目を閉じた。
ボクは始めて子犬を見た時の可愛い顔を思い出し、最後に目にした子犬の顔を思い出していた。
「そういえば・・・。」
涙をぬぐいながらボクはポツンと呟いた。
「こいつの名前、無いままだと可哀想だよ。」
「そうだよな。」
ケイタは泣きながら答えた。
「チロにしてやろう。」
「茶色だったからな、チロと言うんだ。」
「チロ、明日お墓に名前を書いてやるからな。」
そう言って、ボクとケイタは子犬が埋まっている場所に話しかけた。
基地の中に戻ったふたりは、震えながらチロをつつんでいた毛布にくるまった。
その毛布にはまだ、チロの温もりが残っていた。
ボクにはそれがまるで、
天国からこの冬の寒さに震えるふたりを、子犬が守ってくれているように思えた。
きっとケイタも同じように感じていたに違いない。
だからか急に、ケイタは自分に言い聞かすかのように話しを始めたんだ。
「これでいいんだ、あんなに苦しんでいたんだから。」
「あんなに弱って、苦しんでいたんだから…」と。
それを聞いてボクはケイタに訊ねた。
「チロ、天国に行けたかな?」
「絶対に行ってるさ。」
「そうだよな、最後に嬉しそうな顔してたもんな。」
「俺達が天国でまた飼ってやればいいんだ。」
そしてそうイケタが言ったあとに、ボクは言葉を付け加えた。
「もしボクがチロと同じになったら、今度はお前がちゃんとやってくれよ。」と。
「当たり前だろ、苦しまないようにするさ。」
ケイタはボクの手を取ってそう言った。
遠い遠い昔のお話。
ケイタは今でも覚えてるだろうか?
そんな小学1年生ふたりが、心を痛め涙で眠った冬のことを。
そう、あの時からふたり、この世には神様なんてものはいないということを知ったんだ。
作品名:神様なんていないんだ 作家名:天野久遠