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神様なんていないんだ

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ケイタの手には大きな石があった。
ケイタが何も言わなくてもボクにはみんな分かった。

「可哀想だからな。」
ケイタは泣きながらそう言った。

「でも、できないんだよ・・・オレ。」
「こいつ、こんなにも苦しんでるのに・・・できないんだ。」
震えた声と一緒に、ケイタの石を持つ手も震えていた。

子犬は目を閉じて涙を流し、弱々しく泣きながら、片方の前足だけを異様に伸ばしては痙攣した。
子犬のそんな姿は、まるで何かに救いを求めるように思えた。
鳴き声は徐々に小さくなっているようで、口元に泡を吹きながら痙攣が続いていた。

間もなくして、子犬は少し瞼を開いて、目をきょろきょろとさせはじめた。
まるで何かを探すように・・・。

「ボクがここまで面倒を見たんだんだから…。」
そう言ってケイタの手から、持っていた大きな石をボクは取り上げた。

先ほどまでの子犬が痙攣する姿が瞼に残る。
だれか・・・た・す・け・て。

ボクも言った。
「可哀想だもんな…」

ケイタは黙ってうなずいた。

そしてボクは、大きな石を持った右手を振り上げた。
子犬と目が合った。
そのとき・・・なぜかボクには、子犬がありがとうと言ってるように見えた。

振り上げた腕を下ろすと、溢れ出る涙が止まらなかった。

作品名:神様なんていないんだ 作家名:天野久遠